学力だけではなく、生命力を求められる

防大の基本コマンドは「走る」「叫ぶ」「飛び跳ねる」です。忌野清志郎さんのライブのように躍動感のある生活であり、縦ノリのリズムが求められます。

これは、防大では学力だけではなく、生命力をも求められるからです。

生命力とは「限界に立ち向かう力」「不条理に耐える力」「困難を乗り切る力」のことであり、高校時代に全てであった学力偏差値はなんの役にも立ちません。防大OBはよく「防大は学力偏差値では測れない」と語ることが多いですが、これは生き物として強くあらねば防大を卒業できないからです。ボルネオのジャングルにおいて、フーリエ変換と英作文が得意でも、あまり役に立たない感じに似ています。

こうした過酷な環境で生き残っている防大生は非常に個性的な人が多く、「筋肉はパワーであり、パワーは生きる力」と言う筋肉至上主義者も一定数生息しています。薩摩藩士は困ったときに「チェスト!」と叫んで気合を入れると聞きましたが、かつての防大はそれに近い文化でした。

筋肉
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一般の自衛隊の文化と少し違う「防大ワールド」

防大では、連帯責任の大反省会、整理整頓不良で空飛ぶ魔法のマットレス、作業服がボロボロになるまでの全力の雑巾がけ、制服にシワを一つも残さないエクストリーム・アイロンなどを行うことになります。防大生活では「団結力」「挫けない心」「手先の器用さ」「ユーモアのセンス」などの全ての要素が必要です。

新入生は押し寄せる不条理に立ち向かいながら強くなり、国家の一大事を救うヒーローに成長していきます。ただ、試練があまりにも多いので、「まず1年間を生き残れ。話はそれからだ」という世界観なのです。

このように書くと「とんでもない学校だ!」と読者の皆様は思うかもしれませんが、卒業生である私も「やばい学校だなぁ」と思って4年間を過ごしていました。

しかし、防大生活には不思議な魔力があり、月に1〜2回ぐらいは「防大に入ってよかったなぁ」と思う瞬間がやってきます。卒業生が集まって飲み会をすると狂ったように防大の思い出を語り、昔を偲びます。

防大は陸海空3軍種の統合教育を行っており、文官の教官も多数在籍しているため、一般の自衛隊の文化と少し異なる「防大ワールド」があります。この特徴が、防大の秘境感、そして多様性に溢れたガラパゴスな感じを醸し出しています(自衛隊内部でも防大卒は「やや独特な雰囲気がある」と言われることが多いです)。