本当に「損をしている」のか

私がお世話になっているトロント大学のディリップ・ソマンらの実験でも、時間がかかったほうが、手際よく鍵を開けてくれたときよりも、もっと価値があると感じるという結果が出ています。効率から言うと、短い時間で開けてもらえたほうがよいので、非合理的な結果です。

デュレーション・ヒューリスティックは、みんな持っているもので、「なくそう」とするよりも「避ける、上手く付き合う」というのが賢明なやり方でしょう。自分がサービスを受ける側であれば「損をしたと思うのはデュレーション・ヒューリスティックのせいだ。もっと結果に注目しよう」と考えればいいでしょう。

逆に自分がサービスを提供する側に立ったときは、顧客にも「かかった期間が長いほど価値がある(逆に短いと価値がない)」と思ってしまう認知のクセがあると理解して、対応することも時には必要です。

時間の概念
写真=iStock.com/DNY59
※写真はイメージです

素早い対応をしたらクレームが発生した

例えば、私がコンサルティングを始めた頃の話です。大抵のプロジェクトは何百時間という膨大な時間と労力をかけるものですが、稀に「この案件ならすぐにソリューションの提案ができる」というものもありました。

そういう際はすぐにクライアントにレポートを提出していました。行動経済学の定番で考えれば迅速にクリアできるケースがいくつかあったためです。

ところが、あるクライアントから「短い時間で簡単にできるような提案だったら、もっと料金を下げてくれないか」というクレームが入りました。

クライアントの依頼からレポートの提出までは確かに短時間ですが、私が大学院や起業でかけた膨大な時間と労力の蓄積、また普段から常に新しい文献に目を通す努力をしている結果です。しかし、それは先ほどの解錠のプロフェッショナルのスキルと同様、一般の人にはなかなか理解されないことです。

こういったときには、すぐに解決法の提案だけするのではなく、きちんと時間をかけて、ソリューションの裏側にある理論などを資料を通して説明し、どのような経緯で結果にたどり着いたかと、丁寧に説明してから提案するといいでしょう。それにより、顧客に「こんなに一生懸命考えてくれたんだ」と理解してもらえます。