どんな商品やサービスにも応用可能

タップルの事例は、TikTokにおける企業ブランディング施策の最高事例と表現して差し支えないと思います。ただ、タップルのターゲットは、主に若年層です。

そこでどれだけ結果が出ていても、もっと上の世代を顧客層とするビジネスにはノウハウを流用できないのではないか、と思われるかもしれません。

しかし、エモマーケティングのノウハウは、どんな世代をターゲットとする商品やサービスにも応用できます。弊社ではほかにも数多くの企業からご依頼をいただき、いまのところ順調に結果も出ています。

詳しくは本書の第1章でご覧いただきたいですが、Z世代の特徴をまとめると以下のようになります。

・Z世代はこれからの消費の中心となる層で、強い拡散力を持つ
・Z世代に刺さる発信ができれば、全世代に拡散する
・Z世代は広告が嫌い
・Z世代は自分にとっての「買う理由」を探している
・小さな流行が多発する時代に合わせて、マーケティングも分散すべき

この課題をすべて解決するのが、「エモマーケティング」です。

Z世代に共感してもらえる発信をすることで、すべての世代に広がります。広告ではなく利害関係のない人からの拡散なので、信頼性が高い手法です。

それに「エモ」には決まった形がありません。エモの条件や考え方をお話ししていきますが、同じ発信を見ても、人によって感じるエモは異なります。そこで生まれるものが、自分にとっての「買う理由」になります。

そして、エモマーケティングでは1つの商品やサービスについて5つ以上の発信をします。人によって感じ方の違うアプローチを複数行うことで、より多くの人に届きます。

効果的なエモマーケティングを行うためには、その前提となる「エモ」を理解する必要があります。本稿では、人はどんなときにエモを感じるのかをお話ししていきます。

現実的に想像し得る、小さな幸せを演出

エモマーケティングの目的は、潜在顧客を顕在顧客に変えることです。例えば掃除機を売りたいとき、掃除機を欲しいとは思っていない人、あるいは「言われてみれば、掃除機が欲しいな」という人に、掃除機を買おうと思ってもらうアプローチです。

潜在的に掃除機が欲しいと思っている人に、「この掃除機を買えば掃除が楽になる」と言われても、「それはそうだろう」と、あまり実感が湧きません。

あるいは「従来商品の3倍の吸引力!」と言われても、世の中には機能が充実した掃除機がたくさんあります。いまは、商品そのもので差別化することが難しくなっています。そこで「想像」させることで差別化を図ります。

例えば、「いつもより早く掃除が終わったから、ドリップコーヒーをれて夫婦で飲んだ」という表現になるとどうか。「掃除が楽になる」ということとは別の魅力を伝えることができます。そこで消費者が「掃除機欲しいな」という意識になれば、機能的には似たような掃除機があっても、自分にとっての「買う理由」になります。

ただ、それがすごく大きなハッピーになってしまうと、つくられた世界になってしまいます。例えば「掃除で短縮された時間を使って株で大成功!」といったことになると、誰でも「そんなに上手くいかないよ」と感じてしまいます。

現実的に想像し得る、小さな幸せを演出します。「この商品があると、ちょっと生活が楽しくなる」「何となくよさそうだから、買っておくか」くらいの感覚を持たせることが理想です。

【図表】商品の価値ではなく、商品を買うことで手に入る世界観を伝える
出典=『エモ消費 世代を超えたヒットの新ルール』(クロスメディア・パブリッシング)