免除者が増加すれば“無関係”な会社員の負担率が増加
国民年金の本来の役割は、強めの言葉で言えば「勤労時の強制貯蓄」だろう。生活保護を受ける権利はすべての国民が有しているが、保険料の未納付者が老後を迎えた際、安易に生活保護に依存することは避けるべきである。
年金官僚はしばしば「未納付者が増えても、それは一部に過ぎず、年金財政は安泰」といった主張をするが、この結果、将来の無年金者や低年金者が増えれば、それだけ高齢の生活保護受給者が増える可能性を考慮していない。
年金局の強制貯蓄の機能が不十分なために、同じ厚労省内での福祉財政の負担増が生じることを、まるで気にかけていないと言わざるを得ない。まさに「局あって省なし」の独善的な論理だ。
国民年金は、本来は自営業者とその家族のための年金制度として成立したが、現実にはそれは2割程度に過ぎず、厚生年金から漏れた会社員が4割を占めている。このため、政府は今、国民年金から、会社員らが加入する厚生年金への適用拡大を進めており、パートで働く人などの厚生年金加入者数が増えている。しかし、だからといって国民年金の未加入問題を放置して良いわけではない。
そもそも、零細事業者の厚生年金への加入は、国民年金以上に困難な問題が多い。これは厚生年金の適用事務所が十分に把握できないことや、パートでも労働時間が長く、厚生年金の適用対象となる場合でも、事業主負担を避けるためそれを申告しない事業者も少なくないことが生じている。このため、厚生年金保険料の未納付者も100万人程度存在するとみられる(国民年金被保険者実態調査2020年)。
また、主婦パートの多くで、年収106万円や130万円を超えると、会社員の夫とは別の年金や医療保険料を負担しなければならないことを避けるために、それ以下の年収水準で就労を抑制する「働き方の壁」が女性活躍推進の面からも大きな社会問題となっている。
これらの年金の諸問題に、抜本的に対応するための手段として、政治家は何もしなかったのか。そうではない。福田康夫内閣時(2007~2008年)の社会保障改革国民会議で提起された、基礎年金の保険料を、3.5%の年金目的消費税で代替する構想があった。
これは増税ではなく、同時に国民年金保険料が廃止となり、厚生年金などの保険料も同様に引き下げられることから、基礎年金保険料の納付者にとっては負担増とならない。仮に、実現していれば、国民年金の未納付者だけでなく、第3号被保険者など、多くの制度的な課題が一挙に解決できたはずだったが、できなかった。なぜか。年金官僚が保険料の徴収部門が不用になることを防ぐ、といった組織防衛のためにこの案を潰したのだ。
保険料の支払い義務者のおよそ4割が、未納付や免除の状態となっている国民年金は、すでに保険制度として成立できず、前述したように税金や会社員の年金に依存している。見方によっては「破綻」していると言ってもいい。
それにもかかわらず、厚労省は国民年金制度の抜本的な改革を避けているように見える。避ける代わりに、冒頭で触れたように「保険料納付率が持続的に高まり、年金財政は安泰である」といった説明をマスコミに必死にしている。ここで重要なのは、官僚の言葉巧みな説明を鵜呑みにするのではなく、より掘り下げたマスコミの報道だが、その役割は果たされていない。
年金財政の安定性については、これ以外にも多くの説明されない闇が存在している(国民負担率「五公五民」の天引き地獄なのに…欧米より23%も低い"年金支給額"を毎年減らすしかない残酷な現実 参照)。問題山積の国民年金を含む公的年金は、巨大な官営の保険事業である。これを厚労省の一部局としているために、政治的な影響も受けやすく、健全な運営が妨げられている。
これを以前の国鉄や郵政公社のような公的企業として独立させ、厚労省だけでなく、金融庁の監督下に置くことが、年金財政の健全化に必要ではないだろうか。