厚労省は国民年金の保険料の最終納付率(2020年)が初めて8割を超えた、と発表した。メディアは「コンビニ納付・アプリ決済などデジタル化が奏功」などと賞賛したが、昭和女子大学特命教授の八代尚宏さんは「国民年金の免除者が近年増加しており、それを含む本当の納付率は、過去10年間以上にわたって40%前後で改善の兆しはほとんど見られない」という――。

年金官僚に手玉に取られるマスコミのお粗末

厚生労働省は6月26日、自営業者などが加入する国民年金の保険料の最終納付率(2020年)が80.7%と初めて8割台に達したと発表した。これを受けて、マスコミは「2007年以降に表面化した『消えた年金』問題などで年金制度への不信感が高まっていた2010年度に最低の(納付率)64.5%を記録したが、以降は徐々に上昇している」(読売新聞オンライン6月26日)などと報じた。

それは事実だが8割超の要因について「スマートフォンのアプリ決済サービスを利用した支払い方法の導入が功を奏した」といった賞賛の記事ばかりだったのはどういうことなのか。

マスコミ各社は、納付を全額免除・猶予されている人は、過去3番目に多い606万人となったことなど、現行制度の課題も指摘するなど、報道内容は一見するとバランスの取れたもののように見える。

しかし、8割台に乗ったのは、3年前の2020年の最終納付率であり、これにはその後の保険料の後払い分(9%)が加わったというものである。本来、ニュースとして意味があるのは、最終納付率とともに発表された最新2022年の納付率(期限内に保険料が納められた割合)であり、それは76.1%に過ぎない。

今回、厚労省は、猶予された保険料の支払い分も加えた8割超の最終納付率を強調することで、年金財政の安定感を国民にアピールしたかったのだろう。マスコミはその思惑通りに書く必要はないはずなのに、書いた。

官民を問わず、あらゆる保険制度は、保険料が十分に支払われなければ維持できない。政府が運営する国民年金保険についても、その納付率が高まっていることは望ましいが、問題はその中身である。

厚労省の言う「納付率上昇」には大きなカラクリが存在する。実は、保険料を納めた者が増えたのではなく、納付率を計算する際の分母の納付義務者から差し引かれる免除者(納付月数ベース)が、毎年、大幅に増え続けてきたことの結果なのである(※)。免除者の増加はコロナ不況のような一時的な要因だけによるものではない。このことにマスコミは気づいていないのか、気づかぬふりをしているのか。いずれにしろ、報道機関としてはお粗末である。

※所得が少なく本人・世帯主・配偶者の前年所得が一定額以下の場合や失業した場合など、国民年金保険料を納めることが経済的に困難な場合は、本人から申請書を提出・承認されると保険料の納付が免除になる。免除額は全額、4分の3、半額、4分の1の4種類。(出典:日本年金機構HP

保険料の未納付者に通知をして免除者に変えることは、国民年金法の違反者を減らすことにはなるが、年金財政にとってマイナスとなることには変わりはない。よって、年金財政の安定性の見地からは、免除者も未納付者と同じ扱いとして分母に含めるべきだが、見かけ上の保険料納付率を高めたい厚労省はそうしようとはせず、マスコミも公表データから独自に試算することはほとんどしない。