「#教師のバトンプロジェクト」で噴出した悲痛な体験談

また、教員の場合、労働環境の劣悪さがしばしば報じられており、これが忌避される要因になっているという見方が根強い。

象徴的なのが、2021年3月に文部科学省自身が始めた「#教師のバトンプロジェクト」だ。本来はベテラン教師が教職の魅力をSNSで発信することで、若手にバトンをつないでいってほしい、という趣旨で始まったが、蓋を開けてみると、現場での悲痛な体験談が噴出した。

NHKが番組で取り上げたツイートには以下のようなものがあった。

『まだ中学校教員になって3週間も経ってないけど、正直この1年で辞めようかなって思ってる。理由は部活動。学級経営で頭がいっぱいで教材研究もろくに出来てないのに、放課後休日は部活動って意味わからん』
『3年勤めて精神疾患になりました。土日休めない。毎日残業。毎月90時間近くの時間外労働。死にたいってずっと思ってた。労働環境の改善こそが、これからの先生たちに届けたい本当のバトンです』

当時、文科大臣だった萩生田光一氏が「学校の先生ですから、もう少し品の良い書き方をしてほしい」と苦言を呈するほど、“苦情殺到”だったのだ。

誰もいない教室
写真=iStock.com/Yoshitaka Naoi
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若手教員への負担増は予想されていた

実際、教員の勤務実態は厳しい。文科省が調査した「教員勤務実態調査(令和4年度)速報」によると、10、11月の1日あたりの在校時間は、中学校の一般教員で11時間1分。副校長・教頭になると11時間42分に達する。慢性的な残業体質が根付いていることが分かる。また、土日は、一般教員が2時間18分に対して、副校長・教頭は1時間16分と、部活の影響と見られる出勤が教員の負担になっている様子が分かる。それでもこの調査は6年前との比較になっていて、いずれも在校時間が短くなっている。おそらく文科省は「改善している」ことを強調したいのだろう。

実は、こうした教員、特に若手教員への負担増は、もともと予想されていたことだ。決して放っておいて、改善方向に向かうという話ではない。というのも、かつて大量採用されたベテラン教員が、ここへきて相次いで定年を迎えており、学校現場における年齢構成が劇的に変化しているからだ。例えば2013年頃ならば中学校の現場は50歳から55歳の教員が20%、45歳から50歳の教員も15%を占め、次いで40歳から45歳の教員が多かった。25歳から30歳の若手は全体の10%程度で少数派だったのだ。

つまり、新人が入ってきてもベテラン教員が面倒を見る体制になっていたのだが、2019年頃からこれが大きく崩れた。45歳以上のベテラン教員が大きく減り、30歳から35歳が最多層になると共に、若手の相対的な割合も高まったのだ。これが、まだまだ経験の浅い若手教員への負荷を大きくしていると見られる。