大手電力はまだ規制料金に縛られている

ここにもう一つ落とし穴がある。実は規制料金制度は、2020年度に撤廃される予定だったが、新電力のシェアが十分に伸びていないという見方から引き延ばされたままなのだ。

電力が社会のインフラという観点に立てば、安定供給はマスト。電力会社には、重い供給責任が生じるはずだが、政府はそれを明確に課してはいない。このあたりも甘い。参入したが利益の出ない新電力。安いと思い込み新電力と契約した消費者。そして規制料金に縛られる大手電力……。これが、電力自由化しても電気代が安くならない構造だ。

さらに、日本の電力コストの大半が化石燃料による燃料費に占められている。

ウクライナ侵攻というロシアの暴挙が、ここに深刻な影を落とす。慶應大学産業研究所の野村浩二教授研究室の推計値〔(一財)キヤノングローバル戦略研究所 杉山大志 研究主幹のリポート〕によれば、日本全体の1カ月の電力コストは、2022年12月に過去最高を更新して、月額2兆3000億円に達した。日本の火力発電所は、天然ガスと石炭を燃やし発電している。天然ガスと石炭の高騰が、電力会社を直撃し、そこに円安影響が響いた。

電気代を底上げしていた再エネ賦課金の変化

その上に、まだある。再エネ賦課金(再生可能エネルギー発電促進賦課金)も影響している。皆さんは電気料金の請求書の明細を毎月ご覧になっているだろうか。請求総額だけを見て「高いなー」と嘆かれていないか。明細をよくご覧いただくと必ず「再生可能エネルギー賦課金」という項目が目につくはずだ。

先ほど紹介した、FIT(固定価格買取制度)とFIP(フィードインプレミアム)の買い取り価格と合わせて2023年度の再エネ賦課金の単価が、経産省から今年3月に発表された。

再エネ賦課金の単価は、昨年度の3.45円/キロワット時から驚くほど下がり、今年度は1.40円/キロワット時になった。今年の5月分の電気料金から適用されている。FITは2013年から開始された制度。開始時の2013年には0.35円/キロワット時だったが、毎年上がり続け、去年をピークとして、やっと下がった。

【図表】再エネ賦課金 単価(円/kWh)
経産省の資料などを基に作成

なぜこんなことが起こるかというと、再エネ賦課金の単価は、その年度に想定される電力事業者の買い取り費用の総額から、「回避可能費用」と事務費を差し引き、想定される販売電力で割って算定されるからだ(2023年度の再エネ賦課金の算定結果については経済産業省HPを参照)。

ここで出てくる「回避可能費用」とは、FITやFIPで買い取った電力量と同じ量の電力を、もしも火力発電などで調達したら、値段がどうなるかというコストである。