レコード貸しから企画提供へ
Tカードの基盤であるカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)のTSUTAYAは、もともと増田社長が貸しレコード店として始めた。『売れる仕掛けはこうして作る』(栗木契他、日本経済新聞社、2006)にその頃の話が描かれている。元になる資料はすでに絶版のようだが、アマゾンの中古で購入できる。『情報楽園会社』(増田宗昭、徳間書店、1996)である。ここには、CRMが一般顧客のためになるとはどういうことかの一つのヒントがあるように思う。
TSUTAYAは、1982年にLOFTで貸しレコード屋を企画し、さらに翌年には枚方駅南口に出した蔦屋の1店舗目が成功する。そこから店舗の数を増やしていくことになるのだが、さらに店舗の数が増えるに従い、店舗ごとに売上のばらつきが出てくることに気づく。競合店が周りにも見え始めるようになり、このまま店舗を増やしてもいつか行き詰まるのではないかと感じはじめた。
そこで、当時広まりつつあったフランチャイズ・チェーンの仕組みを導入し、他人の資本を利用した店舗展開を考えるに至る。増田社長によれば、フランチャイズにすればすぐにうまくいくというわけもなく、他の例をみると本部と加盟店のトラブルも少なくなかった。そこで、その運営にあたって、マクドナルドを始めとしてフランチャイズ契約書を取り寄せ学んだという。
結果としてこのフランチャイズの仕組みが事業拡大の成功に繋がるわけだが、この際大事だったのは、自らの事業の定義を変更したことであった。すなわち、自分の事業は、一般顧客にレコードを貸すことではなく、レコードを貸す貸しレコード店舗に、企画を提供するサービスと考えたのである。
フランチャイズから貸しレコードの販売状況についてのデータを集約し、その分析を行う。そこから、より効果的な企画を立案し、フランチャイズに販売するというわけだ。事業の定義の変換に伴い、「ACOS410」という当時1億円もした情報管理システムを導入したという。
自らの事業をいかに定義するのかという問題は、事業の根幹であることはいうまでもない。よく知られているのは、エーベルによる3次元を用いた事業の定義だろう(邦訳『事業の定義』碩学舎、2012)。最近日本語も復刊され、それに伴う追加の解説を無料で読むことができる 。
http://www.sekigakusha.com/sbj/
この事業の定義では、顧客の視点と企業の視点がうまく生み合わされる。顧客の視点としては、顧客は誰かという次元と、顧客が必要としている機能は何かという次元が必要になる。それから、企業の視点としては、自社が持っている技術は何か、その技術はどういう機能を提供しているのかを考える。顧客の側から2次元、それから自社の側から2次元、合計で4次元となるのだが、そのうち、顧客が必要とする機能と自社の技術が提供できる技術は同じものにならないといけないから、これを一つに合わせると3次元になる。顧客のことを第一に考えるマーケティングは、こうして事業の定義を通じて仕組み化され、企業の収益性と結びつく。