一般顧客のためのCRMの可能性

TSUTAYAであれば、ドラスティックに顧客を変えるとともに、その顧客が必要とする機能に合わせ、自社の技術も変えていっていたということになるだろう。エーベルの事業の定義の場合、多くは次元の一つを変えるぐらいからはじめるのだが、TSUTAYAは自社の技術(ここではフランチャイズの店舗であろうか)を元に、大きく経営の舵をきったといえる。

当時、CRMという言葉があったかどうかわからない。しかし、今も昔も、一般顧客の情報を集めるということは、それを資源や技術として、別のビジネスを可能にするのである。実は、CRMの大きな可能性の一つがここにある。

TSUTAYAはレコードを貸すという事業から、情報を集めて分析し、企画を作って販売するというビジネスに仕組みを変えていっていった。この経緯を知れば、TSUTAYAがどうしてTカードを始めたのかもよくわかる。Tカードにとって重要なことは、TSUTAYAの延長線上にある。一般顧客を囲い込んでもっとたくさん何かを売りたいと思っているのではなく、そのためのアイデアを、個店に売りたいと考えているのである。

最近のポイントプログラムをみると、こうした可能性に活路を見出そうとしているのはTカードに限らない。例えば、最近の記事で、Pontaがデータの活用方法を一緒に考える勉強会を立ち上げたとあった 。そのままだと一般顧客のためになるかどうかわからないが、Pontaの運営側であるロイヤルティマーケティング社にすれば、こうして企業を新たな顧客としたビジネスが生まれている。あるいは、より積極的には、CRMの先駆的企業として知られる山梨のスーパー・オギノは、顧客の購買情報を用いてメーカーから有利な条件を引き出して一般顧客に還元したり、共同開発を進めたりしてきた(金雲鎬「顧客情報の活用」、『1からのリテールマネジメント』碩学舎、2012)。

『日本食糧新聞』2012/7/25
http://news.nissyoku.co.jp/
『1からのリテールマネジメント』
清水信年,坂田隆文著/碩学舎/2012年/本体価格2400円


 

マクドナルドも、例えばそうした方向はあるのだろうか。実は、マクドナルドはかつては直営店を重視していたが、近年ではフランチャイズの数を増やしているということもある。

収益の源泉が変わるのならば、いよいよ僕たちのような一般顧客にとって魅力が増す可能性がある。僕たちのハンバーガーの購買情報をうまくまとめて、それからTカードやPontaのように仕組みを整えて、ハンバーガーをもっと安く提供するというプランはどうだろう。

個人的な空想ではある。マクドナルドは日本マクドナルドであって、ハンバーガーを売るビジネスそのものを変革することは容易ではないからだ。この点は、最初に紹介したブログ記事の指摘が同じように重なる。そういえばTカードは、韓国最大規模の共通ポイント、OKキャッシュバックと連携し、ポイントカードのグローバル化を進めようとしてきた 。ポイントプログラムについては、以前から野村総研が調査を続けてきたが、そのレポートによれば、韓国はもともと共通ポイントカードの普及が早かったという。

→「日本・韓国でポイント交換サービスを開始 韓国43,000店舗で貯まる「OKキャッシュバックポイント」が「Tポイント」に」CCCニュースリリース
http://www.ccc.co.jp/company/news/2011/20110530_003008.html


→「グローバル視点を取り込んだ「企業通貨マーケティング」の導入」『Navigation&Solution』
http://www.nri.co.jp/opinion/chitekishisan/2008/pdf/cs20080604.pdf

いずれにせよ、収益の源泉が他に出来上がれば、ハンバーガーを無料にすることだって考えることはできる。少し前にマクドナルドがコーヒーを無料で提供した際、一部でフリーのビジネスモデルとの関連性が議論されていた。それ自体はおよそフリーのビジネスモデルとはいえなかったが、それが絶対不可能なわけではない。

最後に個人的希望を含みすぎてしまったが、CRMやロイヤルティプログラムを考えるに際しては、顧客を囲い込んでもっと買ってもらおうという発想ではなく、それが僕たち一般顧客にとって、どういう価値を提供しているのかを考えてほしいのである。その意味において、個別クーポンは、僕たちのために事業の定義を変えるための、第一歩目として位置づけておいたらどうかと思う。