首都大学東京准教授 水越康介(みずこし・こうすけ)●1978年、兵庫県生まれ。2000年神戸大学経営学部卒、05年神戸大学大学院経営学研究科博士後期課程修了。首都大学東京研究員を経て、07年より現職。専門はマーケティング論、消費者行動論。主な著書として、『企業と市場と観察者』『Q&A マーケティングの基本50』『『仮想経験のデザイン』(共著)『マーケティングをつかむ』(共著)など。

CRMの可能性

前段では、一人ひとりに異なる値引きを行うマクドナルドの新型クーポンの話をもとに、それがどういう意味を持つのかを考えてきた。直接的なやり方や成果はなかなかつかめないが、一つの論点は、僕たち一般顧客にとって、どういう意味があるのかということであった。さらに、比較のうえでいえば、値下げではなくクーポン券であることの顧客の側の意義を見出せるかどうかを考えてきた。

この問いは、マーケティングを考えるうえでは基本的である。顧客を第一に考えてこそ、マーケティングだからである。もちろん、顧客のことばかり考えていては、会社が倒産してしまうと言う人もいるだろう。そのとおりだが、だからといって顧客のことを考えなくていいというわけではない。顧客のことを第一に考え、その実現が売上や利益につながる仕組みをつくりだすことが、今日の企業には求められているはずだ。CRMやロイヤルティプログラムもまた、そうした仕組みでなければなるまい。

もちろん、値下げもクーポン券も短期的なプロモーション活動の一環なのだとみることもできる。顧客を第一に考えるというよりは、より短期的な手法として、その場その場で利益を上げていくやりかただというわけである。こうした手法は、例えば『価格・プロモーション戦略』(上田隆穂/守口剛編、有斐閣、2004)に詳しい。値付けとプロモーションを一緒に考える重要性がわかる。けれども同時に、この本で強調されているように、いかなる短期的な手法であっても、ブランド育成など長期的な視点のもとで運用できてこそ真のマーケティングといえる。その際には、やはり顧客のことを無視する事はできないのである。

『価格・プロモーション戦略』
上田 隆穂・守口 剛編/有斐閣/2004年/本体価格1900円



少し話を広くとりながら、CRMやロイヤルティプログラムの未来を考えていくことにしたい。この際、マクドナルドの事例は、とても重要な示唆を提供してくれるように思う。