音楽配信サービスで立ちはだかった巨大な壁

中学に進んだエクは既にコンピュータではナンバーワンの子どもとして知られていました。当時、エクは「自分たちは世界一になるんだと思っていた」といいますが、同時に「僕はミュージシャンとしては一番になれなかった。その後、優秀なプログラマーにはなれるかもしれないと思ったけど、結局それも無理だと分かったんです(4)」と、自らの限界も悟ったといいます。

音楽とテクノロジーが大好きで、才能もあったものの、それでは念願の世界一にはなれそうもありませんでした。しかし幸い、エクにはアイデアを出し、プロジェクトを率いて結果を出す「起業家としての才能」がありました。

エクはプログラマーとしてはトップではないものの、人にプログラミングを教え、人をまとめて何かをつくるという自分の才能に気づきます。「起業家」としての才能に気づいたことがその後の躍進につながります。

以来、いくつかのサービスで実績をあげますが、最も自信のある音楽配信サービスには当時アップルという巨大なライバルがいました。「スポティファイ」が誕生した時、音楽配信市場はアップルの一人勝ち状態でした。そう、相手は前述のビズ・ストーンの前にも立ちはだかったスティーブ・ジョブズです。

「音楽をただでくれてやる」サービスの勝機

ライバルがスティーブ・ジョブズとなったら、あなたはどうするでしょうか? ジョブズでなくとも、圧倒的強者が目の前に立ちはだかっていたら、迂回うかいしたくならないでしょうか?

大手レコード会社のトップを口説き、大物ミュージシャンを説得して、「盗み」が横行していた音楽配信の世界を正し、デジタル音楽の時代を切り開いたのは間違いなくジョブズの功績でした。

普通はこれほど強力なライバルがいれば、市場への参入を諦めるか、アップルのいる北米を避けて自分たちが得意とするヨーロッパでの事業に専念するものです。しかしエクは、事業を成功させるためには、アメリカで成功をおさめ、ストリーミング事業で世界一にならなければならないと考え、アメリカへの進出を決意します。

それは、アップルと戦うことを意味していました。ジョブズから見るとスポティファイのやり方は「音楽をただでくれてやる」許しがたいサービスでしたが、エクは、食べていくために音楽と他の仕事をかけもちしなくてはならない状況にある友人のミュージシャンたちを助けるために、アップルとは別のやり方で勝負を挑みます。