少子化は「もうひとり産む」では解決しない

少子化の解決には、今結婚している夫婦に「もうひとりプラスで1人産んでもらえば解決する」などという鉛筆なめなめの論説を展開する御仁もいるのですが、論外です。そもそも女性の初婚年齢自体が上がっており、晩産化が起きている中で、どうしても出産年齢の問題があります。ベビーブーム期のように20代前半で第1子を産んだ時とは時代が違います。

少子化は、婚姻数の減少であり、生涯無子率上昇の要因の大部分が未婚率の上昇によってもたらされていることからも明らかです(〈男性の2人に1人は子を持たずに生涯を終える…岸田首相は「まもなく日本を襲う過酷な現実」が見えていない〉参照)。

そして、その婚姻減少とは、若者が若者のうちに結婚できない問題でもあります。人口動態調査より、対未婚人口初婚率というものがあります。未婚人口のうちどれくらいが結婚するのかを見る指標です。人口千対のその数字の25~29歳と30~34歳の男性の累積値をみると、1990年と2020年とを比べれば、半減していることがわかります。

この減少と児童のいる世帯数の減少とは、当たり前ですが完全に一致するほどの強い相関があります。婚姻が減る分だけ子どもの数が減るのです。

朝の公園で子供とサッカーをする父親
写真=iStock.com/recep-bg
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対策に躍起になる政府に絶望的に欠落しているもの

もうひとつのグラフは、初婚率の推移と児童のいる世帯の平均年収推移とを合わせたものです(図表3)。こちらは負の相関で、初婚率が下がれば下がるほど、児童のいる世帯の平均世帯年収はあがっています。つまり、ある程度の基準の年収に達しない層が結婚できていないことを意味します。

【図表】対未婚人口初婚率(25~34歳男性累積値)との相関
筆者作成

「結婚と年収とは関係ない」などという人がいます。もちろん、そういう人もいるでしょう。しかし、統計をマクロで見れば、若者の経済環境が改善しないまま何十年も放置したせいで、結婚も出産も「一部の経済的に恵まれた層だけができるものと化していったことは否定できません。

本記事では、所得というものだけを取りあげましたが、仮に額面の所得があがっても、それを上回る物価高の現状では実質賃金は減っているも同然です。しかも、税や社会保障費といった非消費支出が、じわじわと何十年もかけてステルス値上げされており、可処分所得で見ればかえってマイナスとなっている人も多いことでしょう。

年明けから政府がぶちあげた「異次元の少子化対策」は、基本的に「子育て支援」一辺倒である点が問題だと思います。子育て支援を否定するものではないですが、出生数の増加を本気で考えるのであれば、今結婚している夫婦よりも、30年間で半減してしまった初婚の増加に目を向けるべきです。その観点が絶望的に欠落しています。

そして、それは婚活支援やマッチングアプリなどではなく、そもそもの若者の経済的基盤の安定と将来に対する安心を提供することです。