熱がないのに咳が止まらない場合は?

問題は、明らかな熱発が4日以上続いたり、呼吸が荒く息苦しさが出ていたりする場合だ。もちろん呼吸器疾患をはじめとした基礎疾患を有している場合や高齢者の場合はこのかぎりではないが、とくに持病がない人でも、日ごとに悪化してこのような症状に至った場合は、いわゆる「カゼ」である可能性はかなり低く、肺炎の可能性もあるといえるため、早急な受診が勧められる。

ベッドで横になって咳をする女性
写真=iStock.com/RyanKing999
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では、熱がないのに咳が出続ける場合は放っておいていいのだろうか。こちらもそうとは言えない。市販薬を飲み続けている場合は、それに含まれている解熱鎮痛剤によって見た目に発熱がないようにマスクされてしまうことがあるからだ。じっさい、咳が日ごとに酷くなっているものの、体温を実測しても高くて37度前半などという人であっても、聴診で肺雑音を聴取し、レントゲン写真で肺炎像を確認できたケースもある。

このケースも、あらゆる「最強の成分」が混ぜ込まれている市販の総合感冒薬を服用することが引き起こした害の典型例といえるだろう。いわゆる「咳止め薬」は咳の原因を除去するものでも、咳を治すためのものでもない。繰り返すが、原因を除去しないかぎり薬は効かないという認識を持つことは非常に重要なのだ。

カゼでもコロナでもないのに咳だけが出る疾患とは

一方、咳の種類によっては薬が著効するものもある。熱もなく肺炎でもなく、数々の医療機関を渡り歩いて「強い咳止め薬」を処方されてきたにもかかわらず、まったく効かないという咳で数週間悩んでいる人に、たびたび出会うことがある。このような人の場合には、ある疾患が見えてくる。

私たち医師のうちでは「後医は名医」という“格言”がある。これは、後に診た医師のほうが前に診た医師よりも正確な診断を下しやすいことから効果的な治療を行える可能性が高く、あたかも「名医」であるかのように患者さんに思われやすいという意味だ。

じっさい、数々の医療機関で薬をもらっても治らないという患者さんが外来を訪れたときに、「お薬手帳」を見せてもらうなど、それまでの治療経過を把握できたことで正しい診断にたどり着き、非常に感謝されてしまうという“こそばゆい経験”を持つ医師は私ばかりではないはずだ。

……最初はちょっとしたカゼみたいな感じだったんです。熱もなくて。近くのお医者さんに行って、咳止め薬を5日分ずつ2回ほどもらいましたが効かなくて。ええ、コロナは抗原もPCRも陰性でした。で、医者を変えたんですね。そしたら一応レントゲンと採血をしようということになって。そしたら肺炎ではないし炎症もないんだけれども、念のために抗生物質を飲んでおきましょうということになったんです。これで治るかな、と思ったんですが、全然効かなくて。それでこちらに伺ったんです……。