市販の「咳止め薬」は飲まないほうがいい
外来では「市販の咳止めでは全然効かないので、もっと強力な咳止め薬を出してください」と懇願されてしまうこともあるが、患者さんが持参した市販薬のパッケージを見てみると、それにはすでに「強力な咳止め薬」の成分が含まれている。その薬が効かないのは、咳の出ている原因が除去されていないか、咳の原因がそもそもその「咳止め薬」では効かないものである可能性があるのだ。
つまり、いずれにしても、まずは原因が何であるかを見極める必要がある。そしてその原因によっては、服用している薬が効かないばかりか、「生体防御反応」を妨げることで悪化させる可能性さえ懸念される。
例えば、カゼでも肺炎でも、気道に炎症が起きると痰が増えるが、この不愉快な痰は、気道を清浄化するための粘液である。この痰が絡んだ咳を薬で無理矢理抑え込もうとすれば、どうなるか。うまく痰が異物と一緒に吐き出せなくなってしまって、むしろ症状を悪化させることさえ起こしうるのだ。
すなわち「咳が出始めたから、すぐ薬を飲んで止めてしまわなくては」と考えて、その原因を知らないままに咳止め薬を服用するのは勧められないし、危険さえ招きうるということを、まず認識しておく必要があるといえる。
たんなる「カゼ」の咳でも1週間は出るもの
もっとも医療機関で診察を受けても、その咳の原因を初診の段階でズバリと診断できる医師がいるのかと問われると、私も含めてその自信のある医師は正直のところ多くはないだろう。だが、いわゆる「カゼ」(普通感冒)の咳であれば、喘息などの慢性呼吸器疾患の既往がない人の場合は、薬を飲まずに放っておいても7~10日くらいのうちに改善傾向となることがほとんどだから、大きな問題となることはない。
かりに症状が完全に消失しきっていなくとも改善傾向が実感できているのであれば、あとは時間の問題と思って待っていれば良いとも言える。それにそもそも、たんなる「カゼ」の咳であっても2~3日のうちに完全に消失してしまうことなど、まずありえないと思っていたほうがいい。
したがって、とくに基礎疾患もなく「昨日から咳が出始めた」などという患者さんが来院した場合、症状も軽微で聴診所見でも異常を認めなければ、「経過を見る」と判断されることも少なくないのだ。「せっかく症状の出始めにすぐ薬を飲めば治ると思って受診したのに、たいした薬も出されなかった」という経験をした人もおられるだろうが、あまりにも発症早期であると、どんな名医であっても診断はつけられないから、このような対応になることは仕方ないともいえる。