時折、本物のパールを身に着けるいたずらも

わたしが着けると本物も偽物に見える。

彼女自身が着こなしたリトル・ブラック・ドレスに良く映える、重連のパールのネックレス。

このときすでに、シャネルは50代だったそうだが、唯一無二にも思える洗練されたみごとな美しさは圧倒的である。

ドレスの黒とパールの輝き。シンプルさの中に、究極のエレガンスを魅せる。

髙野てるみ『ココ・シャネル 孤独の流儀』(MdN)
髙野てるみ『ココ・シャネル 孤独の流儀』(MdN)

シャネルお気に入りのスタイルは、ハリウッドに渡り映画の仕事に関わったときに撮影されたものだという(本書のカバーに使用しているカットもその一つ)。

何連ものパールのネックレスは本物か偽物か! もちろんイミテーション・ジュエリーであるはずだが、本物と偽物のパールの粒を混ぜているのか、あるいは時折本物を着けたりもして惑わすシャネル。

そんないたずらめいたこともおしゃれのうち。

シャネル・スタイルが溢れている名作映画

ルイ・マル監督のフランス映画『恋人たち』に主演したジャンヌ・モローの衣装をいくつもつくったシャネル。その中でも究極の着こなしを披露して、当時発禁本にもなった原作のきわどさや、映画の秀逸さと美意識を高めることに一役買った。

モローは、若い恋人と愛を交わすベッド・シーンで、シャネルのパールのネックレスを重連にし、全裸を披露する。

その衝撃的でエロチックなシーンはあまりに過激で公開時には物議を醸したと言われるが、シャネルのおしゃれなエスプリ(精神)が溢れていて、映画とモローの品格を美しく描いている名作だと思える。

ヌーディーなその「着こなし」こそ、シャネル・スタイルの神髄とも思えて拍手したくなるほど。

パールのネックレスの究極の身に着け方を世に打ち出したシャネル。

向かうところ敵なしの才能に溢れている。