故安倍元首相の選挙区に立憲が候補を擁立

こう書くと話はそこで終わってしまうのだが、そんななかで筆者が強く印象に残った補選がある。立憲が最も大きく負けた山口4区だ。

亡くなった安倍晋三元首相の選挙区。もともと全国屈指の厚い保守地盤を誇り、さらに安倍氏の非業の死によって、自民党は「弔い合戦」と位置付けていた。誰もが「圧勝」を疑うことのない、事実上の無風区のはずだった。

ところが、立憲が元参院議員でジャーナリストの有田芳生氏を擁立したことで、空気が変わる。

有田氏の出馬表明は、告示まで1カ月を切った3月15日。出遅れは明らかだったが、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)問題や北朝鮮による拉致問題に取り組んできた有田氏は、出馬表明会見で「新しい政治を作るため、安倍氏の政治を検証しなければならない」と訴えた。

いくら知名度があるからといって、筆者も失礼ながら、有田氏に勝機があるとは考えていなかった。それでも、有田氏が立候補すれば、昨年の臨時国会における被害者救済法案の成立以降、永田町でも存在が薄れかけていた旧統一教会問題に再び光が当たるだろう。そのことにはきっと意味がある。

山口4区について筆者が事前に考えていたのは、そんなことだった。しかし、選挙戦最終日の有田氏の街頭演説を聴き、そんな考えの浅はかさを思い知らされた。

保守王国で立憲は「不戦敗」を重ねてきた

「ここで闘っていく立憲民主党の仲間。それを支えてくれている皆さんたち。山口を切り開いていくための橋頭、基盤、土台が(この補選で)できたと確信している。私がこの選挙区に立とうと思ったのは、それが目的だ」

改めて最後に語られた出馬の理由。12日間の選挙戦を走り抜いた後だからこその説得力があった。 

思えばこの選挙区で、いや「自民党の岩盤」「保守王国」などと呼ばれてきた多くの選挙区で、野党第1党は旧民主党から立憲に至るまで、戦うことを「捨てて」しまうことが少なくなかった。候補擁立を諦めたり、「野党共闘」の名の下に他党の候補の陰に隠れたり……。最近では「維新王国」と化した大阪でも、同様の傾向がみられる。

自らの手で「岩盤」をうがつための努力を怠ってきた、と言われても仕方がない。