「本人か本人でないか」で揺れ動く気持ち

遺留品やご遺体を前にするということは、ご家族にとっては「本当に亡くなってしまった」という現実に対峙たいじすることを意味する。そして、今度は大切な人の「死」を受け入れなければならないのだ。

行方不明から時間が経ち、ご遺体を発見できても、生前とはかけ離れた姿で見つかる場合も多い。ご家族は「本人じゃないかもしれない」と「本人であってほしい」という2つの気持ちの間で揺れ動く。それは、行方不明という事実を受け入れたご家族に再び、辛い事実を受け入れることを強いることでもある。

それでも、私は、山中でご遺体を見つけたら、すぐにご家族に知らせたい。行方不明でどこにいるか分からない――そんな曖昧な状況から、ご家族を解放したいと思うからだ。

DNA鑑定や歯型などによる身元確認でご本人だと確定したとしても、ご家族が大切な人とのお別れを受け入れるまでにかかる時間は様々だ。遭難者が発見された後も、ご家族の苦しみが全て消えるわけではない。「他のご家族は、どうやって立ち直っていったんですか?」と聞かれたこともある。

行方不明者を探し出すだけが仕事ではない

遭難者を発見することが捜索隊の役割ではあるが、ご家族が「大切な人の死」を受け入れ、私たちを必要としなくなるその日まで、LiSSの役割は終わりにはならない。

中村富士美『「おかえり」と言える、その日まで』(新潮社)
中村富士美『「おかえり」と言える、その日まで』(新潮社)

遭難者の事故の原因や最期の状況、目にした景色を知りたいと思うご家族は多い。しかし私たちは、ご遺体が見つかった現場の状況から遭難の経緯や死因について想像することしかできない。

ご家族にとってはその状況を聞くことで、「亡くなるまで、山の中でひとりで怖かったろうな。苦しかっただろうな」とやりきれない思いでいっぱいになるが、それを伝えるのも捜索隊の大切な役割なのだと思う。

よく「時間が傷を癒してくれる」という。だから、どうしても「1年経ったから」「三回忌だから」と、よく「区切り」という言葉を使ってしまうが、それは私たちのような第三者が勝手に決めてしまっていることなのかもしれない。物理的な時間の経過だけで、ご家族の心情は測れるものではない。

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