高級時計の新作発表会の中で最も大規模なものが、毎年春に開催されるバーゼルフェアである。時計・宝飾メーカーのほか、パーツサプライヤーや機器メーカーまでもがバーゼル市内の国際展示場に一堂に集う。1月開催のS.I.H.H.(ジュネーブサロン)は招待者限定のエクスクルーシブな発表会だが、このバーゼルフェアは料金を支払えば誰でも入場できる開放的なフェア。そのためリテーラーやプレスといった時計関係者以外の一般客も多く、どこかウォッチ・フェスティバルのような雰囲気が漂っている。
40回目の開催となったバーゼルフェア2012には、主催者側の発表によると、時計とジュエリー合わせて41カ国から1815社が出展、来場者数は昨年比1%増の10万4300人にのぼった。世界的に活況を呈する高級時計業界だが、なかでも成長著しい中国やオイルマネーで潤う中東からの来場者が多く目に付き、そうした人々を意識した新作も少なくない。
さて、今年の傾向はというと、耳目を集めるようなド派手な時計は影を潜め、しっかりと地に足をつけた有意義な開発が印象的だった。トレンドと呼べるほどのものではないが、高級時計の未来を示唆するいくつかの方向性も見受けられた。
まずは、腕時計の基本的な性能向上である。シリコンと磁力を活用して精度向上に挑むブレゲ、クロノグラフ操作時のわずかな誤差を防ぐ新機構を発表したパテック フィリップ、操作性を飛躍的に向上させたロレックスなど、時計本来の役割を見つめ直した開発が活発化。一見地味だけど画期的な開発にトップブランドの矜持が垣間見える。
次に挙げたいのが、レディースウォッチへの注力だ。女性用の機械式時計というと、これまではメンズウォッチをダウンサイズしただけのものや、そこにジュエリーをセットしたものという印象が強かった。しかし今年は、オメガがコーアクシャル・キャリバー搭載のレディースウォッチを拡充、タグ・ホイヤーも女性向けにデザインを刷新した「リンク」コレクションをローンチするなど、“本気のレディース”が目に付く。
ファッションブランドの機械式時計の充実ぶりも特筆ものである。彼らが本格的に時計製造に参入して久しいが、近年は自社グループ内での一貫生産体制を確立したブランドも多く、その製品は時計専業メーカーと比肩するほどの品質に達しつつある。大手資本によるグループ化が進んだ今、時計メーカーやファッションブランドといった区分けもかつてより意味を成さなくなっているのかもしれない。
ある種ブーム的だった狂乱の時代を経て、新たなフェーズに突入した高級時計の世界。これからどこに向かうのか、次なるイノベーションは何なのか……など、まだまだ興味は尽きない。ここでは今年のバーゼルで発表されたモデルのなかから、高級時計の今を映し出す注目18ブランドの一押しモデルを取り上げる。
※本特集は2012年7月23日現在の価格(税込み)で表記しています。
※本特集内で使用している略語は、18K=18金、SS=ステンレススチール、WG=ホワイトゴールド、PG=ピンクゴールド、RG=ローズゴールド、Pt=プラチナを表します。
掲載ブランド一覧
BREGUET / ブレゲ
BREITLING / ブライトリング
BULOVA / ブローバ
BVLGARI / ブルガリ
CHANEL / シャネル
CHOPARD / ショパール
CITIZEN / シチズン
GRAFF / グラフ
HARRY WINSTON / ハリー・ウィンストン
HUBLOT / ウブロ
LOUIS VUITTON / ルイ・ヴィトン
MAURICE LACROIX / モーリス・ラクロア
OMEGA / オメガ
PATEK PHILIPPE / パテック フィリップ
ROLEX / ロレックス
SEIKO / セイコー
TAG HEUER / タグ・ホイヤー
ZENITH / ゼニス