転職先は激務

転職先は激務でした。そのストレスで免疫力が落ちてしまい、転移してしまったのではないかと思っています。しかし、そんな状況に耐えかねて再び転職を考えていたら、偶然にも同じ業界から再びヘッドハンティングの話がきたのです。渡りに船とはこのことで、引き留めにもあいましたが再転職することにしました。

肺の部分切除手術を受ける際に、病院からもらったパンフレットの1ページ。たくさんの機器や管が付けられるようだ。
肺の部分切除手術を受ける際に、病院からもらったパンフレットの1ページ。たくさんの機器や管が付けられるようだ。

しかし、勤務先と通院する病院も再び関東に戻り、その紹介状を書いてもらうのと同時に受けたCT検査――。そこで肺への転移が見つかりました。1度目の転移からたった2カ月後のことでした。転移の速さ、転職先の内定が取り消される可能性が出てきたことへの不安が重なり、また苦しみを味わうのかと再び目の前が真っ暗になりました。それに、最後に転移する場所は毛細血管が集まる肺だということは以前医師から言われていたのです。

とはいえ、私のガンは切除さえしてしまえば、再び転移が見つかるまでは体には手術以外の負担はありません。転職先へガンや手術のことをなんとか隠し通そうとはじめは思いましたが、不可能だとわかり正直に打ち明けました。このときの葛藤は精神的にはかなり追い込まれ、苦しかった。しかし、私が働いているのは製薬業界ということもあって理解があり、内定には「問題なし」と判断されました。そして、運よく転職も2度目の転移の手術も、両方うまくいったのです。

死を覚悟する選択をしたからといって、転移と再発の恐怖から逃れることはできていません。1度は自分の死を受け入れたつもりでした。しかし、半年ごとの検査が迫るたびに、背後から死の恐怖に追いかけられているような感覚に陥ってしまいます。残りの人生を充実させることとは別に、その恐怖から逃れるため、直近の半年間は毎月のように旅行の計画を詰め込んでしまっています。その姿を見た友人からは「生き急いでいるように見える」と指摘されましたが、CT検査で再び転移が見つかるかもしれない現実を一瞬でもいいから忘れていたいのです。

「5年生存率50%」のガンが見つかってからの5年間

友人の存在の大切さがあらためて身に染みた

そして独り身の寂しさも加わり、旅行先の街では風俗店に通いまくってしまうのです。単純に性欲を発散させているのではなく、寂しいのです。まやかしの愛とわかっていても、それを求めてしまうのです。そんな私を見かねた友人の女性は「もっと心の距離が近くて、密なコミュニケーションが取れる場に身を置いたほうがいい」とアドバイスをくれました。友人の存在の大切さがあらためて身に染みています。

例えるなら私は、テレビゲームをクリアしていくようにガンと向き合っているように思います。このゲームは、各ステージをクリアするほど難易度が高くなります。これからは転移と手術の回数が増えるだろうし、年齢も上がれば体力も衰えてくるでしょう。ガンを乗り越えることが難しくなるのは必然です。けれど、1度ガンになったからといって人生が大きく変わったとは思っていません。自分の人生を俯瞰して見てみると、2度の転移と3度の切除手術、転職や旅行などいろいろな経験をした先に、現在があります。私が途中で人生に絶望しなかったのは、たったひとつの出来事ですべてを判断しなかったからだと思います。

ここまで読んでくれた方には、私がそうであったように、1つの出来事だけで判断を早まり、人生に絶望する必要はまったくないということを、伝えておきたいです。

一つの出来事に翻弄されず、判断を早まらずに生きていきたい
(構成=東田俊介・藤中一平 撮影=藤中一平)
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