テレビの中じゃなくて、社会に目を向けるように

復職してからは、いろいろな価値観が変わりました。仕事のことで言うと、それまではずっと視聴率競争の渦の中にいて、テレビ東京が「万年最下位」と言われていたのを脱却させるために尽力する、っていうモチベーションがあったんです。ただ、命と対峙する期間を経験したことによって、「どんなコンテンツが本当に世の中に必要なのか」と、テレビの中じゃなくて、社会に目を向けるようになりました。

それからは医療系の番組だったり、医療シンポジウムに積極的に参加したりと、今までとは違う分野に惹かれるようになりました。会社組織のことで言うと、それまで「テレビ東京に私の代わりはいない」くらいに思っていた時期もあったんですが、いざ土俵から降りてみると、まったく変わらずに正常に動いているのを目の当たりにしまして。自身が傲慢だったんだなと反省しましたし、そうして誰かが抜けても人材がいる場所に身を置くありがたさと、組織としての健全性も感じました。

趣味の面でも変化があって、当時は「仕事が趣味」くらいに話していたんですが、自然がすごく美しく感じられるようになったんですよね。それまで「人間」と「自然」に切り分けていたものが、自然の中に人間が存在しているという感覚になって……本当、不思議ですよね(笑)。今は、夫(上出遼平氏)と山にトレッキングに行くのが趣味になっています。

そうした価値観の変容があったことで、「地に足つけて、自分の人生の主体性を取り戻したいな」っていう感覚が芽生えてきて、フリーになる選択肢を取りました。局アナ時代は、ずっとテレビ東京で働き続けるものだと思っていたから、そんな決断をしたことにびっくりしていますし、それほど脳梗塞になった経験が自分の人生における大きなトピックスだったんだなと。

特に当てもなく独立して、最初は不安もあったんですが、『5時に夢中!』(TOKYO MX)のアシスタントや、やりたかったパラスポーツ番組のMCなど、フリーになってからの5年間は充実した毎日を過ごせました。信頼している先輩の佐々木明子さん(テレビ東京初の新卒採用女性アナウンサー。『WBS』などを担当)から「自分の中にスペースをつくれば何か入ってくるよ」と言われたことが、本当にその通りになりましたし、実力をつけて人間関係を構築できる力があれば、どこかで誰かがチャンスを与えてくれるんだなと実感しています。

近々夫とアメリカに移住する予定

2023年3月で週4の生放送番組(『5時に夢中!』)は卒業して、次はインプットする時間が必要かなと思い、近々夫とアメリカに移住する予定です。向こうに行って何をするかは決めていないんですけど、現在と180度異なる環境に身を置いて、知見を広げていきたいですね。

もともと、先行き不透明なほうがワクワクしちゃうタイプなんですが、「経験」って、絶対に誰にも奪われない財産だと思っていて。年を重ねると、どうしても体力が衰えていくし、それと並行して、あらゆることへのモチベーションも下がっていってしまいそうで、それはすごく怖いことだなと。もう1度、今の立ち位置から離れて、生活に「余白」をつくって、経験を積んでいきたいなと思っています。

たぶん、日本の会社員の方って、「休むこと」への罪悪感がすごくあると思うんです。ただ、目の前の仕事や職場が世界のすべてになってしまうと、時に見栄や人間関係の渦に巻き込まれて、大切なことを見失ってしまうかもしれません。私も以前はそうでした。

でも結局それは、「健康、そして命」があってのもので、それ以上に大事なものなんてないと思うんです。もっと休むことを肯定してほしいし、たとえ忙しくても、今自分が本当は何を欲しているのか耳を澄ませるぐらいの余裕は持って、苦しくなったらちゃんと逃げて、心身を休ませてほしいです。

夫とアメリカに移住。「新しい環境」で「新しい経験」にワクワクしたい