女装ではなく女性になれる

①女装の妙技 子犬顔の小悪魔

上背があるわけでもなく、こじんまりとした顔だちの倫也は、女装してもなんの違和感もない。可愛いというだけでなく、自然体で「オンナ」を演じることができる。

女装というと、過剰なオンナ演技で笑いをとる俳優も多いが、倫也は「あるがままの女」、ホルモン総とっかえレベルの女装ができる。

女装役が多いのは、舞台で何度か女性役も演じてきたからだろうか。私が観た舞台は「八犬伝」(2013年)。キャストは二階堂ふみと内田慈以外ほぼ男性なのだが、倫也が演じたのは犬坂毛野という女性の田楽師。しなやかで美しく、強い女を見事に演じて、拍手喝采を浴びていたと記憶している。

神かがった女装が見られる作品

ハイクオリティな女装でネットを沸かせたのは「お義父さんと呼ばせて」(2016年・フジ)だ。このドラマは、ヒロインの娘(蓮佛美沙子)が父(渡部篤郎)と同い年の彼氏(遠藤憲一)と付き合うことで巻き起こる騒動を描いたラブコメディ。

倫也が演じたのは蓮佛の兄。父のコネで入社した割に、口だけはいっちょ前。実は女装でストレスを解消する「男の娘(おとこのこ)」なのだが、家族には隠している。女装してヒョイと顔を出したときの可愛らしさったら! たぶん今でも画像検索すれば出てくる。

そのせいで、この作品で覚えているのが倫也の神がかった女装と、山崎育三郎&伊藤修子のアナザーラブストーリーになってしまった。

また、映画「影裏」(2020年)では、主役の綾野剛の元恋人・副島和哉役。

地方に行ったきりの綾野を心配し、いつか戻ってくると信じている。性別適合手術を受けた設定で、しぐさも言葉もしっとり。ホテルの部屋にやんわり誘うも、綾野はハグだけして去る。まあ、なんて色っぽい、大人の別れのお作法。倫也の女優魂が凝縮されたシーンだった。

売れっ子になり、主演作も増えたせいか、女装役や女性役からちょっと遠ざかっている気もするが、そのポテンシャルの高さは胸に刻んでおきたい。