そもそもは売春を取り締まるのが目的
ある華僑新聞は2000年当時に北京の2軒の2つ星ホテルで起きた出来事として、米国に帰化した中国人夫婦がホテルで夫婦証明書の提示を求められたが、そんなものは外国人が持っているはずもなく、宿泊できなかったと書いている。
3つ星以上のある程度グレードの上のホテルへ行けば泊めてくれるはずだ、と言われて追い出されたという。実際、筆者も5つ星ホテルではトラブルになったことはないが、2000年前後に田舎の小さな旅館に泊まる時に、フロントで夫婦であるかどうかをチェックされたことがある。
このように、中国では、十数年前まで「男女が同室を利用する場合は、結婚証明書を提示」というルールが現役だった。これは法律としては成文化されていないが、中国人なら誰もが知る「常識」の規則という。そもそもは、外国人に見られたら「みっともない国の恥」と認識されていた売春を取り締まるのが目的だったという。
中国が「国際的」になってから日はまだ浅い
80年代に北京市内の数少ない国営高級ホテルで働いていた人の話では、管轄の公安当局は、ホテルから毎日宿泊者の年齢、身分、部屋分配と人数とその「関係」の届け出が必須で、怪しい人物と判定されると、ホテルにやってきて客室に突撃調査が入ることもあったという。
ホテルはそのトラブルを防ぐために、チェックインの際に客の「関係」を事前に調べるのが慣例になったという。これが中国の三十数年前の空気だった。中国がいろいろな意味で「国際的」になってから、日はまだ浅い。
筆者の友人の話では、1988年に上海のホテルの出口で彼女の大学の同級生の中国人女性が外国人男性と出てきた際に、売春容疑で警察に捕まり大変な騒ぎになったという。当時、彼らは普通の成人として男女交際をしていただけだったが、取り調べで未婚男女の同室宿泊という「重罪」を逃れるために「婚約者」と主張。
知り合いなどのコネも総動員して寛大な対処を得て、警察からは釈放されたものの、「ならば即、結婚を」と求められ、二人は電撃結婚をして出国せざるを得なくなったという。そのくらい、中国社会の男女関係に関するルールは保守的だった。