試合前の円陣では声出しを担当。そこで話した内容を問われてこんな話をした。
「僕らは知らず知らずのうちにというか、アメリカの野球に対してかなりリスペクトというか、そういう気持ちを持っています。ただでさえ素晴らしい選手たちのラインナップを見るだけで、そういう気持ち、尊敬のまなざしが、逆に弱気な気持ちに変わってしまうというケースが多々ある。その中で今日1日だけは、その気持ちを忘れて対等な立場で、彼らに勝つんだという気持ちを、みんなで出したいと思いました」
その大谷の言葉通りに日本は先制を許しても、村上と岡本和真内野手の本塁打などで逆転。7人の投手を注ぎ込み、最後はダルビッシュ有投手と大谷の“メジャー継投”で、逃げ切ったのである。
「間違いなく今までの中でベストな瞬間だったと思います」
子供の頃から抱いていた「世界一の選手になる」という目標は達成できたか、という質問に大谷からはこんな言葉が飛び出した。
「ただ今日勝ったからといって、その目標が達成されるというわけではないので、これは一つの通過点としてもっと頑張っていきたいですし、これからシーズンが始まるのでそこに向かっても……」
漫画を超える夢の舞台は、これで一度終わり、待っている現実は……。
ダルビッシュと大谷の約束
だから大谷はもう一度、ヒリヒリするために気持ちを固めているのだ。
祝宴の終わったグラウンド。改めてダルビッシュと抱き合うと、静かにこう語りかけた。
「3年後(の第6回大会)もまた一緒にやりましょう」
その言葉にダルビッシュの心が動いた。
「(第6回大会出場は)全く考えていなかったですけど、彼の言葉を聞いて、また選ばれるような選手でいたいなと思いました」
これは2人の約束だった。
ただ2人だけの約束ではない。これは大谷とダルビッシュがファンと交わした約束でもある。
2026年。またWBCの舞台で2人が揃う。今度は世界一を守るために、日の丸のユニフォームを着て熱い戦いを見せてくれる。
それもまた漫画を超えた出来すぎの世界かもしれないが、私たちはこの約束を、絶対に忘れることはできない。