「正直申しますと、飲食業に携わったころの私にとって、ソムリエは雲の上の存在。自分がなるとは考えてもいませんでした」
イタリア語で「優雅な暮らし」を意味するオッツィオの若きソムリエ、大蔵祐介はそう語った。
オッツィオで働く上で、どうしてもソムリエの資格が必要というわけではなかった。試験を受けようと思ったのは、仕事を通じてイタリアワインに接する機会も多く、自然とワインに興味を抱くようになっていたこともあるが、同じ職場のソムリエの先輩にワインの話を聞き、ワインそしてソムリエという職業の奥深さを肌で感じ、自分もやってみたいと思ったからだった。
実際に勉強を始めてみると、産地やブドウの種類といったワインの基礎知識から銘柄まで、覚えることも多く苦労した点も多かったが、「お客様へワンランク上のサービスを提供するためにも、何か形になるものが欲しい」という一念で精進し、2010年にソムリエの資格を取得した。
大蔵がワインの真の魅力に目覚めたのは、ソムリエになってからのことだった。
「仕事柄、銘柄もヴィンテージも同じワインを開ける比率が高いのですが、ワインは1本1本で表情が違うのです。また、昨日と今日とでは味が違う、ということもあります。ワインというものは生きているんだな、と実感しますね」
多くのセレブリティーが集まるオッツィオだけに、ワインに詳しい客も少なくない。ソムリエバッジ(ブドウの実を模したバッジ)をつけてホールに立つと強いプレッシャーを感じる。
「裏を返せば、やりがいがあるということでもあります。『ソムリエが言うなら、勧められたワインを飲んでみようか』と思ってくださる方もいらっしゃいますので、それぞれの好みをお聞きしながら最適なワインをお勧めしています」
言葉に出して「美味しかった」と言われなくても、客の表情や動作に答えは表れる。そして、幸せそうにほころんだ表情を見るとき――ソムリエ・大蔵の胸は喜びに震える。