「ウクライナ人の存在自体を消そうとしている」

組織的だったか否かは、戦争犯罪の捜査、さらにはこれが集団殺戮(ジェノサイド)に該当するか否かを判断する際に重要になる。そのため、証拠集めには慎重を期す必要がある。

ジェノサイド条約は、人種や国籍、宗教などを理由に特定集団を組織的に破壊することを、ジェノサイドの構成要件にしている。

バイデン米大統領は、「ウクライナ人の存在自体を消そうとしている」として、ジェノサイドであると明言した。

国際法上ジェノサイドだと認定可能か否かにかかわらず、ウクライナ東部を含め、ロシアの支配下にある地域で、ブチャと似たようなことが起きていると考えなければならない。これから占領される場所でも同様であろう。

実際、東部の港湾都市であるマリウポリでは、すでに万単位で市民の犠牲者が出ていると伝えられている。

停戦で平和は訪れない

こうした現実が明らかになってしまった以上、ウクライナにとっての平和は、ロシア軍が国内から完全に撤退したときにしか実現しないことになる。

これは、今回の戦争における構図の大きな変化である。そして、ロシアに占領されている場所がある限り平和があり得ないとすれば、停戦の意味が失われる。

停戦とは、その時点での占領地域の、少なくとも一時的な固定化であり、ブチャのようなことが起こり続けるということになりかねない。これを受け入れる用意のあるウクライナ人は多くないだろう。

結局のところ、停戦のみで平和はやって来ないのである。

従来は、ウクライナ政府も停戦協議を重視してきた。侵略開始から数日ですでに停戦を呼びかけたのはゼレンスキー大統領である。しかし、ブチャの惨状が明らかになるなかで、停戦自体を目的視することができなくなった。

あくまでも、平和につながる限りにおいて停戦を追求するという姿勢への転換である。