子どもを持つことのコストが大きすぎる

ただし、子ども自体が幸福度の低下につながるというわけではありません。子どもの存在は、親の幸福度を高めると考えられます。しかし、子どもを持つことによって夫婦関係、お金、働き方、時間の使い方等が変化し、それによって発生する負担の方が大きく、幸福度の低下につながってしまうわけです。

「子どもを持つことのコストの方が大きくなりすぎている」というのが適切な現状認識でしょう。

ちなみにヨーロッパのデータを用いた分析によれば、子どもを持つことによって女性の幸福度が低下する一番の原因は、ズバリお金です(*2)。子育ての金銭的負担が過大であり、これが解消されれば、子どもを持つことの幸福度へのプラスの効果が顕在化します。日本のデータを用いた分析では、夫婦関係の悪化とお金が幸福度低下の主な原因であり、やや夫婦関係悪化の影響が強いと指摘されています(*3)

妊娠、出産、子育てなどの費用
写真=iStock.com/takasuu
※写真はイメージです

子持ち女性の幸福度は上昇していない

子どもを持つことによって既婚女性の幸福度は低下するわけですが、この傾向は直近の約20年間でどのように変化してきたのでしょうか。

図表2は、2000~2018年までの子持ち既婚女性と子どものいない既婚女性の幸福度の平均値を見ています。分析対象の年齢層は20~89歳です。なお、図表ではトレンドをわかりやすくするために、直線の近似曲線を追加しています。

【図表】各年別の子どもの有無別の既婚女性の幸福度の平均値

図表2から、次の2つのポイントが読み取れます。1つ目は、2003年と2017年以外で子どものいない既婚女性の幸福度の方が高くなっているという点です。2つ目は、近似曲線の推移から、子持ち既婚女性と子どものいない既婚女性の幸福度の差が緩やかに拡大しているように見える、という点です。

2つ目の結果は非常に気になります。この点をより正確に検証するために、年齢、学歴、健康状態、世帯年収、就業の有無といった要因の影響をすべて統計的手法でコントロールし、再度分析してみました。

その結果、①子持ち既婚女性の幸福度は経年的に上昇していない、②子持ち既婚女性と子どものいない既婚女性の幸福度の差は変化していない、ということがわかりました。

端的に言えば、「子持ち既婚女性の幸福度に改善傾向が見られず、子どものいない既婚女性よりも幸福度が低いという状況は変わっていない」ということです。