仕入れ価格の上昇、残業代、資金繰り…

ウクライナ紛争などによるエネルギー資源などの価格上昇や円安の進行を背景に、仕入れ価格が上昇するなどコストプッシュ圧力は高まった。その状況下、中小企業にとって価格転嫁は依然としてむつかしい。2022年度の計画ベースで中小企業全体の経常利益は前年度から5.1%減少すると予想されている。4月からは中小企業においても月60時間を超える残業の割増賃金率は、それまでの25%から50%に引き上げられる。コストプッシュ圧力は一段と高まるだろう。

また、“ゼロゼロ融資(実質無利子・無担保の融資)”の返済に伴い、資金繰り不安を抱える企業も増えている。東京商工リサーチによると、2023年1月、ゼロゼロ融資後の倒産件数は前年同月比500%の48件だった。全体として中小企業の賃上げは人材のつなぎ留めなどを目的とした防衛的なものになる傾向は強まっている。

全国各地で増えている「シャッター通り」
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中小企業の賃上げは格差問題に直結する

わが国経済全体で、規模の大小に関係なく、積極的に賃上げを進める企業が増えているとは言いづらい。雇用の7割を占める中小企業の多くにおいて、物価上昇ペースを上回る賃上げは難しいといわれている。その状況が続けば経済格差は拡大するだろう。

足許の世界経済では、米国や中国で生産活動が停滞し始め、設備投資のモメンタムは弱まり始めた。わが国では設備投資の先行指標である機械受注が減少している。今後、賃金を積極的に上げることのできる企業と難しい企業の二極化が鮮明となる展開は排除できない。

資本主義の経済では、基本的に、市場メカニズムを通して成長期待の高い産業や企業にヒト、モノ、カネが再配分される。競争原理が働くことによって、企業の成長ペースや個人の所得状況に差が生じることは避けられない。問題は、その状況が続くと格差の固定化懸念が高まる。それは社会心理全体を抑圧し、長期的に政治・経済にマイナスの影響を与える。