コロナ禍からの回復や経済成長を優先せよ

核兵器でお互いに抑止し合っている状況のなかで、日本だけが核兵器を持たないと、核兵器を持たないウクライナのように相手に見くびられてしまう可能性もある。安倍元首相は22年2月27日のテレビ番組でその対処として、日本は核兵器の単一所有国にならずとも、その共有を行えばよいとの提案を行った。後で考えると、これは元首相の遺言のようなものだったと思う。

たとえば、米国と核兵器を共有すると、日本の独自な判断では核を使用できないが、米国の同意が得られれば使用できることとなり、その結果日本の抑止力は大幅に高まる。実際にドイツとイタリアは、米国と核兵器を共有している。

これに対しては意見が大きく分かれるだろうが、熟慮に値するものではないか。アベノミクスで雇用が増えて大きな恩恵を受けた日本の若者は、戦争体験や被爆体験はないため、核アレルギーを強く持っていない。核共有を実現させることで日本に抑止力を付け、将来世代の安全性を増そうとするのは、安倍元首相から若者への意味のある「プレゼント」であるともいえる。

リベラルの人々やジャーナリズムから「軍国主義だ」と批判されながらも、安倍元首相は将来世代の安全・自由・繁栄を真剣に考えていたのである。いま、岸田政権が防衛費をGDP(国内総生産)比2%に引き上げる方針を掲げたのも、安倍政権時代から進められてきた防衛重視の流れからの継続である。

最後に、防衛財源をどうまかなうのが適当かについて述べよう。中国の軍事的脅威が2~3年で解消するとは思えない。長期間にわたって防衛費が日本国民の重荷になるなか、それを国債負担で行おうとすると、いずれは市中のお金の目減りでインフレになるか、経常収支が悪化して対外資産の取り崩しにつながり、国民につけが回ってくる。国を守るのは現在、将来各世代の責務と考えれば、中期的には国防費は国債でなく、税収で賄うのが基本原則だろう。

だが、日本経済はコロナ禍からの回復が始まったところである。経済成長や技術革新などの回復の兆しを、あまりに早く抑制してはならない。

クレディ・アグリコル証券のエコノミスト会田卓司氏の言うように、直ちに財政バランスを達成しようとすると、不完全なままの雇用均衡のもとに、日本経済は足止めになる。同様に考えると、本格的な長期回復に向かう前に、防衛増強のためと称してすぐ増税を実施すると、消費増税によって景気の芽を摘んだ今までの失政を繰り返すだろう。

せっかくのコロナ禍からの回復に水を差さないようにしながら、長期的に税収確保をしながら国民の全体世代で国を守る姿勢を確保していくという難題が、経済政策全体に課せられている。

(構成=渡辺一朗 写真=アフロ)
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