社員の多くは、プログラムすら書けない文系出身者

ベンダーは、エンジニアに発想力がないことが問題だ。外国ではエンジニアは高給取りの職業だが、それはシステム全体を構想する力を持っている人材がいるからである。一方、日本の大学の工学部やプログラミングの専門学校はそこまで教えない。就職してOJTで学ぼうにも上司は古い知識しか持たず、まともに教えることができない。その結果、多くが単なる“プログラミング・コード屋さん”になってしまう。つまり、今話題になっているChatGPTなら簡単に処理する程度のプログラムを人海戦術で処理しているのだ。

しかし、それだけではない。指示されたプログラムを書くだけのエンジニアを多く抱えたベンダーは何をするか。顧客の生産性向上は二の次で、他のベンダーに仕事を奪われないように汎用性のないシステムにつくりこむ。発注側が「他のシステムに替えたい」と気づいても後の祭りだ。汎用性がないので全面刷新は難しく、一部改修でお茶を濁しているうちにますます泥沼にハマりこみ、効率の悪いシステムがゾンビのように生き続けるのだ。

発想力がないのは、発注側も同じである。そもそも情報システム部門に配属される社員の多くは、プログラムすら書けない文系出身者だ。発注の仕方もわかっておらず、「大手で実績があるから」とベンダーに丸投げする。これではDXが進まず、賃上げの原資をねん出できないのも当然だ。

間接業務を省人化する方法は、もう1つある。BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)の活用だ。

アメリカ企業の賃金が高いのは、間接業務のみならず、さまざまな業務を海外にアウトソーシングして省人化しているからである。たとえばGAFAMのような巨大IT企業は、ソフトウエア開発まで外に出している。高度なものは東欧を含めて旧ロシア地域へ。定型的なものはインドだ。

ある通信会社のコールセンターもインドにある。アメリカの消費者が「通信障害が起きた」と電話をすると、インドにつながってインド人オペレーターが対応する。受電した内容の9割はシステム上で遠隔対処が可能。1割は現場で修理が必要で、巡回中のトラックに衛星回線で連絡して直行・対処してもらう。

このように海外にアウトソーシングすれば、人件費はアメリカ本国よりずっと安い。給料が10分の1の人に業務をやってもらえば、残りの9割が賃上げの原資になる。アメリカ人の高給は、海をまたいだBPOによって支えられているのである。

日本企業も同じことをやればいいのだが、英語の壁が立ちはだかる。日本人消費者と直接会話するコールセンター業務はもちろんだが、そもそも発注者の日本人社員が英語を話せないので他の業務も海外に出しづらい。企業は業務と同時に人を中に抱えざるをえず、省人化を進められない。

さらに、企業努力でDXの壁と英語の壁を乗り越えることができても、省人化は容易ではない。解雇規制という最大の壁が立ちはだかっているからだ。