胸部X線検査をしても長生きできるわけではない
A. 胸部X線検査のスクリーニング検査が、総死亡率を減らすという効果は、認められていません。
図表1を見ていただくとわかるように、4年間毎年胸部X線検査による肺がん検診を行ったグループと、行わなかったグループを比較した調査結果で、13年後に肺がんによる死亡率を減らすことは確認できませんでした。
肺がんに限らず、がん検診が効果があるかどうかについては、2つの論争があります。
②死亡率全体を減らす(=寿命を延ばす)かどうか?
がん検診は効果があると強調する人たちは、①を主張します。しかし、がん検診の本来の目的は寿命を延ばす(②)ことです。ところが、寿命を延ばす効果については、効果が確認されていないのです。
がんを治療できても死亡率が下がるわけではない
がんは体のどこにでもできるので、仮にその一つを見つけて(例えばすい臓がん)、その臓器のがんが減ったとしても、他の臓器のがんでの死亡率が増加してしまったり、あるいは、がん以外の死亡原因(脳卒中や心筋梗塞など)の死亡が増えたりすると、全体として、一部のがん検診を受けたところで、大海の一滴になってしまう可能性があります。
アメリカのCDC(米疾病対策センター)はこの頃、ヘビースモーカーに関しては2年に1度、CT検査を勧めると言っていますが、この取り組みが寿命を延ばすかはまだよくわかりません。ダートマス大学のウェルチ教授によると、がんにはウサギとカメとトリがあるそうです(*1)。
ウサギは「治療する意味があるがん」です。カメは進行が遅いので治療する必要がなく、がん検診によって発見して治療をしても、かえってその人の体力などを低下させるため、不必要な治療になってしまいます。乳がんがカメの典型例です。トリは、早期発見しても助からないほど進行スピードが速いがんです。
カメのがんについては、「がん」という名称を使わないことも提唱されています(IDLE:indolent lesions of epithelial originと呼びます(*2))。現在の医療では、ウサギかカメかを見分けることができないため、治療する必要のないものが治療されているというがん検診の弊害があります。
(*1)Welch HG,Less Medicine, More Health: Beacon; 2016
(*2)Esserman LJ., et al., Addressing overdiagnosis and overtreatment in cancer: a prescription for change. The Lancet Oncology 2014; 15: e234-e42