駒大・大八木監督ほか指導者は手の内を明かしたくない

筆者は陸上競技をメインに取材するスポーツライターだが、トレーニング内容の詳細を明かしたくないと思っている指導者は非常に多い。

今季、悲願の「駅伝3冠」を成し遂げ、引退を表明した駒澤大・大八木弘明監督もそのひとり。例えば、距離走のペース設定などは書かないでほしい、と言われてしまう。東京五輪男子マラソン6位の大迫傑もコーチから練習内容の詳細は明かさないように釘を刺されているようで、トレーニングについての質問にはあまり答えてくれない。

陸上トラックを走るランナーの足元
写真=iStock.com/mel-nik
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そういう意味では2023年の箱根駅伝は“画期的な出来事”があった。本選に出場する大学を決める22年10月の予選会で出場権を得られなかった大学のなかから、個人成績が優秀な選手で構成されるチーム「関東学生連合」が各選手の練習内容をメンバー全員にシェアしたからだ。

例年は予選会の結果、11月後半の10000mレース、12月中旬の短期合宿を軸にレギュラー10人を決める流れだが、今回はコロナ禍であることを考慮。合同合宿など選手が集まる練習は行わなかった。そのかわり、今回、関東学生連合を指揮した中央学大・川崎勇二監督は日々の練習内容をリモートミーティング内で公表することで、各選手の状態・調子を判断してオーダーを考えたという。

「レギュラー選考をする意味でも、選手たちが納得できるように、毎週、各校の選手がどんな練習をしてきたのか。選手とその指導者に公開したんですよ。勉強になったというか、参考になったんではないかなと思います。私自身も非常に参考になりましたし、正直、びっくりしました。練習が全然違うんですよ。いろんな考え方あるんだなっていうことを改めて知りました。特に東大の古川君は独特な練習していましたね」

川崎監督は1992年から中央学大の監督になり、箱根駅伝に22回も導いた。そんなベテラン指揮官でさえも、他校の練習のバリエーションには驚かされたというのだ。

川崎監督の話に出てきた、古川大晃(東京大学大学院)は今回の関東学生連合のチームでは残念ながら出番はなかった。だが、左右で別メーカーのシューズを履いている古川は朝練習を確保する時間がないため、通学時間(自転車で約1時間)をトレーニングのひとつに組み込むなど、自分で考えながらやっていたようだ。

関東学生連合は1校から1名が選出されるため、全16校(東大院、慶應義塾大、中央学大、育英大、拓殖大、亜細亜大、関東学院大、日本大、芝浦工業大、筑波大、桜美林大、明治学大、麗澤大、平成国際大、流通経済大、日本薬科大)の練習スタイルを共有したことになる。中央学大の練習メニューを知り、「こんなにレベルの高い練習をしても予選会で落選するんですか?」と驚いていた選手もいたという。

「私は年齢的にも上ということもあり、今回の方針をどの大学さんも受け入れてくれました。私たちの大学のタイム設定を知り、考えられないという選手もたくさんいましたし、いろんな練習があることを知ったと思います。メンバーから外した選手についても、その理由を共有しました。選手選考についてもある程度は納得してもらえたんじゃないかなと感じています」