異なるプロ野球チームの複数の選手が共に練習する合同自主トレ。これに68歳の往年の名投手が苦言を呈した。スポーツライターの酒井政人さんは「ダルビッシュ投手は自らの投球術をSNSで公開しており、2023年箱根駅伝にオープン参加の関東学生連合チームの選手たちは今回初めてふだんの練習メニューをシェアした。トレーニング法など手の内を隠さずオープンにしたほうがイノベーションが生まれるのではないか」という――。
ロサンゼルス・エンゼルスの大谷翔平選手(左)とサンディエゴ・パドレスのダルビッシュ有投手(右)=2021年9月7日、カリフォルニア州サンディエゴ、ペトコ・パーク
写真=USA TODAY Sports/ロイター/アフロ
ロサンゼルス・エンゼルスの大谷翔平選手(左)とサンディエゴ・パドレスのダルビッシュ有投手(右)=2021年9月7日、カリフォルニア州サンディエゴ、ペトコ・パーク

プロ野球選手の“合同自主トレ”にイチャモンの是非

2月1日、プロ野球のキャンプが始まった。

NPB(日本野球機構)に所属する各チームの選手は12月1日から1月末が「自主トレ」期間。近年は球団の垣根を超えた“合同自主トレ”を行う選手が多かった。

そのなかでデイリースポーツの評論家・佐藤義則氏が、1月上旬、「選手個々はそれでいいかもしれないけど、チームとして考えたら決していいことではないと思う」と疑問を口にしたのが話題になっている。現在68歳の佐藤氏は1977年から1998年にかけて165勝を挙げた往年の名投手。現役引退後は5球団でコーチを務め、その指導力にも定評がある。

佐藤氏は“合同自主トレ”を全否定しているわけではない。プレイヤー目線では、「他球団の選手と一緒に練習することで大きな刺激を受けるだろうし、またレベルの高い技術や考え方を教えてもらうことは悪いことではない。また教える方も人に伝えることで自分の技術を改めて確認できたり、さらに現状に満足することなく、より高いレベルを目指す動機づけにもなったりする」とポジティブな意見を持っているようだ。

しかし、コーチ目線になると、「チームのことを考えれば、普通はそんなことはしないと思うけどね。ライバルチームの投手を教えるっていうことは、自分のチームの打者が打てなくなるってことだし、ライバルチームの打者に教えるっていうことは自分のチームの投手が打たれるっていうことでもあるからね。選手たちはいいかもしれないけど、監督やコーチの立場からいえば、たまったもんじゃないと思うよ」と話している。

佐藤氏の発言は自身の経験を踏まえた説得力のある内容だと感じた。

巨人をV9に導いた川上哲治監督は他球団選手と親しくすることを禁じていた。昔のプロ野球選手は同じ球団の選手といえども、みな球団と契約をする個人事業主。「教えてほしいなら、お金を持ってこい」という先輩がいたというエピソードは少なくない。佐藤氏の現役時代を考えると、合同自主トレは意味がわからないといえるだろう。

その一方で近年は日本人MLB選手のダルビッシュ有(パドレス)のように自らのSNSなどで知識やスキルを発信しているアスリートも増えている。6年前の自主トレには、ダルビッシュの呼びかけに合計25人もの選手が集結。そのなかには後にMLBで大活躍することになる大谷翔平の姿もあった。ダルビッシュの教えが大谷に化学反応をもたらしたことが、その後の二刀流開花につながった可能性はある。