救いの手

小学校時代からいじめに遭っていた上里さんだったが、高校は工業高校だったため、上里さん以外のクラスメートが全員男子だったこともあり、平和に過ごせたという。ただ、生きがいになっていたパソコンを失い、警察官に怒鳴られ、どうしたら良いかわからなくなった上里さんは、高校の進路指導の教師に相談した。

進路指導の教師は白内障によって失明していたが、その教師にしか扱えない工業機械があり、受け持つ授業内容はとても盲目とは思えないほどしっかりしたものだった。

ある日、その教師がおぼつかない足取りで廊下を歩く姿を見て、上里さんが腕を貸して一緒に歩く手伝いをしたことがきっかけで交流が生まれ、教師の機械の操作など授業の手伝いをする代わりに、時々食事に連れて行ってもらうようになった。

上里さんの家庭の事情もよく理解してくれていて、母親に食事をもらえなかった日に進路指導室に行けば、おにぎりとコーヒーを出してくれた。

コーヒーの入ったマグカップを包むように持つ女性の手元
写真=iStock.com/Mykola Sosiukin
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上里さんが相談すると、教師はすぐに社会福祉士を呼んだ。社会福祉士は、上里さんの話を聞き、寮制の福祉施設を提案。上里さんは二つ返事で寮に入ることを決めた。

上里さんが入所した寮は、15歳から20歳までの青少年が対象の自立支援福祉施設。女性専用の寮で、最大10人入所でき、自立が目的であるため、アルバイトをして寮費を払うのが条件。だが、上里さんの高校はアルバイトが禁止だったため、世帯主である母親のところに振り込まれている上里さん分の生活保護費(養育費)で家賃を払った。

職員は全部で6〜7人おり、入所している青少年の精神面のケア、金銭面の管理、食事の支度、自立の手伝いなどをしてくれる。交替で、日中は寮長を含め3人、夜は2人が常駐しており、職員は年上の友人のように接してくれた。

門限21時、消灯時間22時など規則はあるが、寮内で友達もでき、高校卒業後はアルバイトをして貯金をしながら遊びに行くこともでき、上里さんにとっては家族と暮らすよりもよほど落ち着いて生活することができた。