家族との同居

上里さんが高2になると、「母親が精神的に落ち着き、上里さんも冷静に対応できるのでは」と社会福祉士から判断され、施設を出て家族が暮らすアパートに帰ることに。

アパートに戻ると、次女が買ったノートパソコンがあった。上里さんは、児童養護施設にパソコンがあったため、使うことができたが、次女も妹たちも使い方がよく分からないのか、放置状態。そこで上里さんがパソコンを使い始めると、インターネットを介して友達ができ始めた。

すると、最初は優しい笑顔で迎えてくれた母親が、再び発狂して暴力を振るい始めるまでそう時間はかからなかった。

「母に暴力を振るわれれば、当然嫌がったり押し返したりなど、防衛行為もします。でも、それをすると窒息しそうになるまで首を絞められたり、お腹を何度も蹴り飛ばされたり、声が出せない状態になるまでボコボコにされるなど倍返しされていたので、反撃をする意欲を失っていました」

やがて上里さんは、パソコンを使ってSkypeで仲間とビデオ通話をしたり、互いにネット配信を始めたりした。

「そのときやっと気が付きました。母は僕が笑っているのが嫌だったのです。誰かと仲良くしているのが心底気に食わなかったらしく、前より暴力がひどくなりました」

仲間と楽しくビデオ通話をしている最中、母親はSkypeがつながっていようがお構いなしに発狂し、乱入。暴力を振るってくる。ネットの向こう側にいる仲間はみな上里さんを心配してくれたが、それがさらに母親の怒りの火に油を注ぎ……ついには母親がパソコンを投げ飛ばし、壊した。

月あかりに照らされた平屋の住宅
写真=iStock.com/urbancow
※写真はイメージです

我慢の限界に達した上里さんは、母親に怒鳴り返し、「殴れるもんなら殴ってみろ!」と叫んだ。すると母親は、踵を返して受話器を取り、「娘が暴れて殺されそうです! 助けてください!」と警察に通報。

数分後に警察官がやってきて事情を聞かれたが、母親の外面の良さにすっかりだまされた警察官は、傷だらけで鼻血まで出している上里さんが反論しようとすると、「お母さんにガス代も水道代も電気代も払ってもらってるくせに生意気言うな!」と怒鳴った。怒鳴られた上里さんは、その場に立ちすくむ。

「警察と児童相談所は連携が取れているとは思えない対応でした。母の話をうのみにして、僕に怒鳴ってくるとは想像もしませんでしたから……」