大阪・堺市の「堺ビッグボーイズ」は、革新的な少年野球チームだ。ライターの広尾晃さんは「保護者にお茶当番などの負担を求めることはなく、プロとして野球指導というサービスを提供している。そして、試合に勝つことより、野球を好きになってもらうことを目標にしている。ほかの少年野球チームが見習うべき点は多い」という――。

日本で一番進んでいる野球チームがやっていること

堺ビッグボーイズは、大阪府堺市を拠点とする小中学校生を対象とした野球チームだ。

このチームは日本にたくさんある「少年野球チーム」とは指導内容もマネジメントも異次元の段階に進化しつつある。

堺ビッグボーイズは、小学部、中学部がそれぞれ専用のグラウンドを持っている。

大阪府河内長野市の中学部グラウンドでは、2年生たちが羽根のついたヤリ状の用具を投げ合っている。今や日本のエース山本由伸が練習で使用していることで有名になった「フレーチャ(FLECHA)」だ。全身を使って投げることで肩肘の負担の少ない合理的な投げ方が身につく。

プロも使用する「フレーチャ」で練習する
筆者撮影
プロも使用する「フレーチャ」で練習する。価格はひとつ1万円ほど。

「フレーチャは、身体を正しく使うことで、人間が本来持っている能力を引き出すための道具です。これを使ってから、みんな投げ方が凄く良くなりました。フォームが綺麗になっただけでなく、良い回転のボールがいっています。球速は上がりましたが、肩肘の故障は大幅に減っています」

こう話すのは中学部監督の阪長友仁氏。

「フレーチャ」を開発したキネティックフォーラム代表の矢田修氏は堺ビッグボーイズのトレーニングアドバイザーを務めている。単に用具を使うだけでなく、開発者の指導を直接受けているのだ。

かつては野球のエリートコース

堺ビッグボーイズが所属するボーイズリーグ(正式名称は日本少年野球連盟)は、1970年、南海ホークスの大監督だった鶴岡一人が大阪で始めた。

鶴岡は、監督を引退後、アメリカからもたらされた少年硬式野球のリトルリーグのチーム「リトルホークス」を創設した。しかしバントなし、盗塁なしなどアメリカ流の野球は、物足りなく思われ、日本プロ野球流の高度な野球を教えるために1970年、独自の硬式野球リーグであるボーイズリーグを創設した。

鶴岡の誘いで多くの元プロ野球選手がボーイズの指導者になった。鶴岡監督のもと南海などでプレーした黒田一博は引退後、大阪市住之江区で運動具店を営む傍らボーイズリーグの「オール住之江」を創設し、多くの野球選手を育成した。その1人が黒田の次男で、広島、ドジャース、ヤンキースで活躍した黒田博樹だ。

ボーイズリーグは当初、小学生が中心だったが、次第に中学部門が充実する。

これに追随してリトルリーグも中学生の「リトルシニア」を創設。さらにボーイズから「ヤングリーグ」が分派。またアメリカ生まれの「ポニーリーグ」も盛んになった。こうした少年硬式野球で活躍した選手は有名高校に進み、大学、プロ野球へと直結した。

なかでもボーイズ出身の有名選手は桑田真澄、立浪和義、ダルビッシュ有、前田健太、田中将大など枚挙にいとまがない。堺ビッグボーイズからも筒香嘉智、森友哉などが出ている。ボーイズ→有名高校→甲子園→大学、社会人、プロは日本野球のエリートコースだった。