「年金は貯蓄」という勘違いがあなたの年金額を減らす

公的年金を「貯蓄」と思い込んでいると、「いつ死ぬかわからないから、早くもらったほうが得だ」という発想になってしまいます。

その誤解こそが、年金を減らしてしまう原因です。

公的年金受給開始年齢は原則65歳ですが、希望すれば60歳から75歳までの間で受け取り始める年齢を自由に選ぶことができます。65歳より前にもらい始めることを「繰り上げ受給」、66歳以降にもらい始めることを「繰り下げ受給」といいます。

「早く受け取ったほうが安心だ」と思っている人は、繰り上げ受給を選んでしまうかもしれません。繰り上げ受給は、年金が早くもらえる分、よくない条件がついてきます。それは、年金額が減額されること。その減額率は、法改正によって1カ月あたり0.5%から0.4%に縮小されましたが、それでも60歳まで繰り上げると24%も減ってしまいます。そして、この減額率は一生変わりません。

繰り上げ受給は長生きするほど後悔する

繰り上げ受給には、減額以外にもいくつかデメリットがあります。

たとえば、繰り上げ請求日以降に病気やケガが悪化し障害が重くなっても、障害基礎年金をもらうことができなくなります。また65歳になるまでは、遺族厚生年金などほかの公的年金を一緒にもらうことができません。したがって、繰り上げ受給中に配偶者が亡くなると、減額された自分の年金か遺族年金かどちらかひとつを選ぶことになります。

そして、いったん年金受給者になってしまうと、iDeCoも続けられませんので、じぶん年金を増やす道も狭まります。

よく「少ない年金でも長くもらえば得なんじゃないの?」という人がいますが、これも間違いです。

繰り上げ受給は、生きる年数が長くなればなるほど損になるのです。

図表3をご覧ください。これは、年金を各年齢から受け取り始めた場合の総額を比較したものです。60歳からもらい始めた人は、81歳のときに65歳からもらい始めた人に追い越されます。その後は長生きするほど受け取り総額の差が開く一方です。

年金は早くもらい始めても得しないどころか、デメリットが多すぎることがおわかりいただけたでしょうか。もちろん、72歳ぐらいで亡くなってしまった場合は、「早くもらっておいてよかった」となるかもしれません。

72歳というのは、男性の健康寿命とほぼ同じ年齢です。男性の死亡数最多年齢が88歳ですから、その後15年ほど生きる人が多いのです。女性ならば、さらに健康寿命から死亡数最多年齢までの期間が長くなります。年金が真に必要な時期というのは、この健康寿命が尽きて働けなくなってからの期間です。

年金は「長生きリスクに備える保険」なのですから、「長生きしたときにもらおう」という考え方を前提にしたほうがうまく活用できます。

なぜなら、年金は遅くもらうほど増えるしくみがあるからです。