世界が変動為替相場制に移行した背景

③変動為替相場制を採用している

【森永】3つ目の理由は、変動為替相場制を採用していることです。レバノンは国内にモノやサービスを生産する力がなく、外国からの輸入に頼らざるを得ず、輸入物価を維持するために固定為替相場制を採用した、と説明しましたね。

【中村】はい、なんとか理解できました。

【森永】では今度は日本です。日本は変動為替相場制を採用しています。夕方のニュースで「本日の為替は1ドル130円、1ユーロ142円……」と流れるやつですね。レバノンはモノやサービスを生産する能力が不足していたために固定為替相場制にする必要がありましたが、反対に日本は十分な供給能力があるから変動為替相場制を採用することができる、と言えます。

【中村】日本も昔は固定為替相場制でしたよね? 1ドル360円の時代があったと、歴史の授業で習った記憶があります。

【森永】よく覚えていますね。その通り、かつては日本も固定為替相場制の時代がありました。変動為替相場制に移行したのは、1973年のことです。アメリカの「ニクソンショック」をきっかけとした為替相場の大転換でした。

【中村】あ、それです! 授業で出てきました。

【森永】当時、アメリカは金本位制を採用していました。国内に保有する金(ゴールド)の量によって、政府が発行できる貨幣の量が制限される、というものです。これはアメリカが世界の金のうち7割を保有していて、ドルが基軸通貨として機能していたことが理由です。

しかし、1955年から20年間も続いたベトナム戦争で、武器を海外から購入するなどしてドルがアメリカ国外に流出しました。加えて、欧州各国がモノやサービスをアメリカへ輸出し、アメリカがドルでそれを購入したことも重なりました。流出したドルは、今度はアメリカの金を購入するために使われ、アメリカ国内の金が流出することになります。

【中村】ふむふむ……。

【森永】アメリカドルと金の流出が続き、アメリカ国外にあるドルが、国内の金の量を上回る寸前まで達しました。そうすると、通貨の裏付けである金が不足することになり、ドルに対する信頼が揺らいで価値が暴落する、という流れです。

アメリカも、ドルが暴落したまま傍観するわけにはいきません。そこで国内外に向けたいくつもの経済対策を打ち出しました。その1つが、ドルと金(ゴールド)との兌換だかんを停止することだったのです。