「なんとか覆らないかと父兄は抵抗してくれました」
ただ、すこし時間がたって冷静になってみると、部員たちには疑問がわいてきた。
「感染していない部員で、試合はできたんじゃないか」
実は辞退決断の夜、ラグビー部員父兄が学校に集まって臨時の説明会が開かれている。学校側は部員のほとんどを陽性者との濃厚接触者として辞退を決めた。
2年半前に感染拡大し始めた頃はその通りの判断になっただろう。しかし現在は重症化率も下がり、接触者の基準も以前より厳密なものではない。ならば、陽性者以外でメンバーを組めるのではないか。出場に希望をもった父兄はそうした訴えをした。学校側との議論は日付が変わるまで続けられた。
木田君は父の帰りを寝ずに待っていた。寝られるわけがなかった。
「なんとか覆らないかと父兄は抵抗してくれたようです。日をまたぐまで話し合いが続いて、父が帰宅したのは深夜1時前ぐらい。『ダメだった』と言われました」
木田君の父親、直之さん(48歳)は磐城ラグビー部OBで外部コーチと保護者会会長でもあり、当日の説明会に参加した。
「3年生にとって、スパンと終わってしまうことを考えると……」
監督も3年生を思うと申し訳なかった、と言う。
「前日、前々日、決勝に勝ちたいとものすごく真剣にやっているわけで。辞退したことは間違ってはなかったなと思いますが、なにか違った方法はなかったかと。非難は学校と私が全て受ける」
感染者に非があるわけではない。どんなに対策をしても100%防止することはできないのは周知の事実だ。時間的な余裕もなかった。
それだけに学校も監督も苦渋の判断だったに違いない。最終的には部員も父兄も受け入れるしかなかった。11月11日、2022年度の磐城高校ラグビー部の選手権への道は終了させられた。その無念さは一生消えないだろう。