「ふつう」のことが書かれている
「ひろゆきアレルギー」に罹患した中高年層が多いツイッターユーザーの声は話半分で聞き流しつつ、私はさっそく『よのなかの攻略法 学校編』を購読してみることにした。
熱心な「ひろゆき嫌い」の人からは、とんでもなく悪辣で冷笑的なことが書いてある有害図書に間違いないと想像したのかもしれないが、結論からいえば書かれている内容はいたって妥当というか、「なるほど、たしかにそうだろう」と素直に首肯できるというか、ごくごく常識的な内容に終始している。
本書は、勉強、交友関係、いじめ、恋愛そして生き方について、子どもたちから寄せられた悩みや相談に、ひろゆき氏が一問一答形式を採用しながらテンポよく(児童書らしいコミカルな漫画や挿絵をふんだんに使いながら)答えていく内容となっている。たとえば、「学校に通うこと」についての意義を説明する章では、ひろゆき氏から以下のような主旨のアドバイスが示されている。
「日本語以外の言語にもなるべく触れる機会を持とう」
「副教科は好きなものを見つけるためにやっておけ」
「いちばん学んでおくべきは人と仲良くなる方法」
――と、このように「ふつう」としか言いようがない現実的なアドバイスが並んでいる。これらのアドバイスを行った理由説明にこそ、ひろゆき氏ならではの「ちょっとシニカルな視点を含んだエッセンス」が盛り込まれているものの、やはりこれを脊髄反射的にバッシングするのは、おおよそ知的な営みとは言い難い。
「ドライ」で「メタ」な教え
「まんべんなく勉強した方がいいのは、この国の学校制度はまんべんなく勉強できる人が有利になるようにつくられているから」
「なるべくいい大学に行くべきなのは、学費が大して変わらないのに周囲の人間のレベルには大きな違いがあるから」
――など、夢や希望を精神論的に語るのではなく、あくまでドライで俯瞰した観点から、この社会の「メタ的なルール」を子どもにもわかりやすく言語化し、自身のアドバイスに説得力を持たせている。「親も先生も、君たちの周囲の大人は世の中にこんな『裏ルール』があるのを教えてくれないよね?」という彼のニヤニヤとした笑顔が浮かんでくるようだ。
同書の総まとめとして「大人が言っていることはいつも正しいとはかぎらないから、つねに自分の意見も持って、それを判断する能力を養うのが大事ですよ」とひろゆき氏は述べている。この意見も実際そのとおりだと思うが、しかしひろゆき氏がそれを言うと「『それってあなたの感想ですよね? と大人に向かって言え』と子どもたちを扇動しているに違いない」――と連想してしまい、我慢ならない人が多いのかもしれない。
いつの時代も変わらない子どもたちの「ありがちな悩み」に対して、飄々としたスタンスでメタ的な意見を表明するひろゆき氏の社会派論客的なスタイルがマッチしていて、全体としてはよくできた本であるように感じた。