――この4月に新入社員が入社しましたが、どんなことを期待しますか。
入社式では「感謝の気持ちを持ち続ける」「仕事を楽しもう」「もっとクルマを好きになろう」という3つの言葉を贈りました。試練に直面してからのトヨタは就職人気ランキングでは下降気味ですが、そんな時期にトヨタを選んでくれたのは何かがあると思う。2012年の新入社員は本当にクルマ好きで、体育会系の元気印が多く集まってくれたと聞いていますので楽しみです。自動車メーカーならクルマ好きは当然だと思われるかもしれませんが必ずしもそうとは限らないのです。
新入社員はまず3年間はガムシャラに働いてほしい。3年が長いと思う人は3カ月でも3週間でも、3日頑張ることから始めてもいい。どんな仕事でも努力して継続すれば必ず自分の財産になります。
――今後、トヨタで活躍できる人材とはどんなタイプの人でしょうか。
ものづくりは人づくりで、人材育成は私の専管事項。人を鍛えないといいクルマもつくれません。新車開発のミーティング時に担当者から「社長にとっていいクルマとは何ですか?」とよく聞かれるんですが、「あなたにとっていいクルマをつくりなさいよ」と言い返します。勿論、私にもこだわりがあるので、少し形が見えた段階で、一緒に試乗してクルマの中で語り合う機会を設けています。私の意見を聞いて反対だと言う人もいますが、ものづくりへの信念を持って自分の意思を貫くとがった人間は大いに結構。でも「いいクルマ」という目的には共鳴してブレないでほしい。若い力で私の期待を超えるほどの「いいクルマ」が出てくれればいいなと思います。
――技術系の社員については目的がはっきりしていますが、事務系の人の働き方についてはどうですか。
「いいクルマ」をつくるのに、技術系とか事務系とかを分類するのはナンセンスです。私自身、事務系出身ですが、技術系の社員と共通言語を持つためにデザインも走りも努力して勉強しました。
どんなに有能な人でも完璧な人間はいませんから、完璧を求めるつもりはありません。99の長所があったとしても一つくらい欠点があるはず。99の欠点があったとしてもたった一つの素晴らしい長所を持つ人もいる。私は99の欠点があっても、一つの長所を磨きあげるように育てられてきた。だからこそ、トヨタマンには一つでもこれなら誰にも負けないぞ、という強みを磨いてほしいのです。