無職の母親は息子の収入だけを頼りにしていた

防戦一方の彼は、なにも言わず母親が落ち着くまで待ったという。彼の腕のいたるところには、防御創があった。

「あの人……キレると手がつけられないんで」

出て行け、もう帰ってくるな、と言われ追いだされてしまった。その日、母親が落ち着くことはなかった。

昔から母親がそんな感じなのかと聞くと、そうだという。彼が話すことを信じきれなかった私は、言い回しを変え、聞き方を変え、表現を変えながら質問を繰り返したが、彼の返事は一貫していたし、整合性があった。矛盾する点もなかった。

そこでわかったことは、母親は無職で彼の稼ぎを頼りに暮らしていたことだった。

しばらく経って、彼の母親も生活保護の申請をしてきた。申請理由は「息子から経済的な虐待を受けている」だった。

小5で児童養護施設、18歳で生活保護に行き着いた男性

事例C どう生きればいいのか、わからない

高山祐介さん(27歳)は、18歳という年齢で生活保護を受けることになった。彼は、母親からの虐待がきっかけで小学5年生のときに児童養護施設へ入所した。彼の入所後、母親が会いにきたことは一度もなかった。

もともと人間関係が苦手だった彼は、それから不登校になった。小学校、中学校へ登校することは、ほとんどできなかった。周囲からの説得もあって高校へは入学した。しかし、その高校へも通うことはできなかった。

施設を退所したあとの生活を見据えて、働いて生計を立てていく試みをいくつかしたが、奏功せず時間だけが過ぎた。

現在は、施設に入所していられるのは原則18歳までで、必要に応じて最長で22歳になる年度末まで措置延長できる場合がある(「社会的養護自立支援事業等の実施について」厚生労働省雇用均等・児童家庭局長、2017年3月31日付の通知による)。だが、これでは十分な支援だとは言えず、2022年6月8日に改正された児童福祉法では(令和6年4月に施行予定)、本人の自立度を考慮して退所の時期を検討するなど、年齢制限の緩和などが盛り込まれた。

しかし彼が入所していた当時は、18歳になると退所しなければならない原則があった。

退所の期限は近づいた。施設側の提案はこうだった。

「生活保護の力を借りて、生きていきなさい」

こうして、彼は児童養護施設の職員に伴われて生活保護の申請に訪れた。

その申請の際に彼はこう言ったという。

「どう生きればいいのか、わからない」