「定年を迎えるまでに検挙してほしい」

【事件17:古参パート、退職日の確保】(GメンBの場合)

とあるスーパーの話です。ここで疑われたのは、もう30年以上同店で働く古株のパートでした。彼女は仕事が終わった後、私服に着替えて買い物をして帰るのですが、いつもレジでは少量の商品しか通していないのに帰る時には異様に大きな袋を抱えていることから多くのスタッフに怪しまれていました。

ただ、そこはベテランのしたたかさ。どんなに不審に思われても決して尻尾は出さず、Gメンが入る日には絶対やらないということを徹底していたため、店側は証拠を押さえることができず、ずっと歯がゆい思いをしてきました。

そんな彼女に定年退職の日が近づいてきました。この店ではパートにも退職金を出す慣例があるので、このままでは彼女に退職金を払わなければなりません。何年も内引きで商品を盗まれた上、退職金まで払うのはどうしても許せない……そう考えた店側から「彼女が定年で店を辞めるまでの間に、なんとか検挙してほしい」という依頼が届きました。

これまでも同店にはGメンが派遣されていましたが、今度ばかりは総力を挙げて彼女の検挙に力を貸してほしい、とオーダーが来たのです。

出勤最終日に捕まり懲戒免職に

そこで私は改めて店長と計画を練りました。従業員に知られないよう入店日を決め、その日は普段より人数を増やして3人体制で臨むことにしました。

そして向かった出勤最終日。今日で退職ということもあって彼女も油断していたのでしょう。彼女は食料品をメインに、野菜、魚、1点数万円もする高級牛肉を次々と自分の袋に放り込み、それを駐車場まで持って行ったところでついに御用となりました。

ショッピング カート スーパー
写真=iStock.com/Asawin_Klabma
※写真はイメージです

彼女は声を掛けた時、神妙な顔をしていました。店長は「これまでずっとこういうことをやってきたのか?」「いつからやっているのか?」と問い質しましたが何も答えません。結局彼女は懲戒免職となり、退職金を払うことはありませんでした。彼女の万引き損害は通算で1千万円近くにのぼると見られますが、それについては証明できないため前科は問わないということで落ち着きました。

興味深いのは、彼女が逮捕された直後、店が従業員に今回の事件のことを口外してはならないと緘口令を敷いたことです。30年近く勤めたパートが内引きをしていたというのは結局のところ自社の恥でしかなく、店はその噂を黙殺することにしたのです。前科は問わないとしたのも、これ以上話を大きくしても店にとってはマイナスばかりと判断したのでしょう。

その一方で店長は「捕まえてもらってありがたい」と安堵した表情を浮かべていたようです。それ以降は内引き犯がいなくなったことで店の売上もずいぶん増えたといいますから、彼女による被害は相当なものだったのでしょう。