巨大方眼紙には左下から右上に書く

思考を整理するノートとは別に、マッキンゼー時代から何か新しいことを考え出さなければいけないときに使っていたのが、方眼紙のような網目が入った大判の特製用紙だ。

これはもともとマッキンゼーが持っていたツールではなく、私が開発して作らせた特注品。欄外の余白には「so What」「MECE」「Zero-based Thinking」などいいアイデアを出すためのマッキンゼーの呪いのジャーゴン(隠語、業界用語)を薄い文字で入れた。

思考のキャンバスのようなものだから、文字を書き込もうが絵を描こうが自由である。ただし、私はこれを左下から右上に向かって横書きで使う。

通常のノートは罫線に沿って左から右、そして上から下に横書きで使う。しかし、きちんとノートを使うというのは言語や論理を司る左脳的な作業であり、直感、創造、洞察といった右脳の働きを刺激しない。まともにノートを使っても、なかなかいいアイデアは出てこないものだ。

夜汽車に乗ったとき、必ず私は進行方向に向かって左側の窓際の席に座ってものを考える。夜汽車だから窓の外の景色はほとんど見えない。電灯の光が時々走馬燈のように過ぎてゆくだけ。しかしその電気信号のような刺激を左目が感知しているときに、ひらめくことが多い。

同じ夜汽車でも右側の席ではさっぱりだし、昼間の電車や飛行機ではまるでひらめかない。何かひねり出さないといけないときは、夜汽車の左側の窓際を陣取るに限る。

あくまで経験則であり、脳科学的な裏付けがあるわけではないが、右脳を働かせるには左目に刺激を与えることが大切だと私は思っている。だから左目で見て右側の空間に向かって発想が広がっていくように、この巨大方眼紙でも左下から右上に向かって書くのだ。マッキンゼー時代は「アイデアを出すときにはこれを使え」と推奨していたが、どうせ私がいなくなれば誰も使わないだろうということで、辞めるときに用紙も全部一緒に持ってきた。現在もBBT(ビジネス・ブレイクスルー)バージョンを作って、じっくりと考えるときに活用している。

BBTで私とミーティングする際、社員は私の部屋に呼ばれて、この白い用紙の上でたっぷり頭を絞られることになる。もちろん録音機も同時に回させる。録音機を忘れたらミーティングはお流れとなる。発想というのは二度と出てこないことがあるので、すべて記録しておく必要があるからだ。また私が考えたことを誰かに実行させるときにも、アウトプットのイメージを共有してもらうために必ずこの用紙と録音を使って普及してもらう。

マッキンゼーの戦略は、すべてこの「巨大方眼紙」から/新しいアイデアを生み出し、大きく飛躍させるために欠かせないツール。右脳を刺激するためには、左目に刺激を与える必要がある。左目で見て右側の空間に向かって発想が広がるように、左下から右上に向かって書く。数字も必ず入れて、裏付けをチェックする。方眼紙の端に、「so What」「Zero-based Thinking」など、アイデアを湧かせるための用語が書かれている。

※すべて雑誌掲載当時

(小川 剛=構成 的野弘路=撮影)