巨大で融通の利く、優れた蓄電池

実は再エネの難点を克服できるすばらしい蓄電設備が日本には膨大に存在する。それは揚水発電所である。

その原理は水力発電と同じで、ダムによって作られた貯水池に水をためておき、電気が必要なときに放水してタービンを回して発電する。普通の水力発電所と違うのは、ダムの下流にもう一つの貯水池があり、電気を使ってその下流の貯水池の水を上流の貯水池に汲み上げることができるようになっていることである。

画像=揚水発電のイメージ
画像=揚水発電のイメージ(電気事業連合会の公式サイトより)

つまり、電気が余っているときに余剰電力を使って水を上流の貯水池に汲み上げておけば、電気が足りないときに貯水池の水を流して発電できる。水はある程度は蒸発するとはいえ、かなり長期間ためておくこともできるので、揚水発電所は巨大でかつ融通の利く優れた蓄電池だということができる。

原発27基分の揚水発電所があるのに…

この優れた蓄電施設を日本は現在2754万kW分も持っている。原発は1基100万kWなので原発27基分に相当する。日本の一般の水力発電所は全部で2216万kW分存在するので、一般の水力発電所より揚水発電所の能力の方が大きいのである。

揚水発電所は北海道から九州まで全部で42カ所あり、全国の9電力のうち北陸電力を除く8つの電力会社、および電源開発と神奈川県が保有している。

これだけの能力があれば、風力や太陽光の発電所が発電しすぎて電気が余っているときには揚水発電所で水を汲み上げてためておき、風力や太陽光の電気が少ないときには放水して発電することによって、再エネ固有の難点を克服することができるはずである。

ところがこの優れた施設がさっぱり活用されていないのである。図表1は揚水発電所と一般の水力発電所の稼働率を示している。なお、ここでいう「稼働率」とは、それぞれの発電所の最大出力で1年365日24時間稼働し続けた場合に生み出される電力量と、実際に生み出された電力量とを比べたものである。

【図表】一般水力発電所と揚水発電所の稼働率
出所=資源エネルギー庁電力調査統計から筆者計算

一般の水力発電所もダムに貯水できる水の量によって発電できる電力量は制約されるため、稼働率100%ということはありえず、ここに示した40%前後という数字がほぼフル稼働の状態に近いとみられる。

揚水発電所の場合も、水を汲み上げている時間帯は当然発電しないから、稼働率はどんなに高くても5割を超えることはないだろう。それにしても、揚水発電所の稼働率は2016年には3.2%、2020年には4.6%と極めて低く、宝の持ち腐れ状態にある。