挽きたての抹茶を飲める家庭用抹茶マシンが販売台数を伸ばしている。発売元は2019年創業のベンチャー起業。創業者は、サントリーで伊右衛門や特茶などのお茶事業に携わっていた「エース社員」だ。なぜわざわざ大企業を離れ、起業したのか。塚田英次郎社長の創業ストーリーとは――。(前編/全2回)
ヒット商品を連発したエースの「第2の人生」
「自分らしく生きたいな、自分にしかできないことをやりたいなと、自問自答してきたところはありますね」
塚田英次郎さんは1975年生まれの47歳。東京大学の経済学部を卒業してサントリーに入社し、2004年から2年間、スタンフォード大学に留学をしてMBAを取得した経歴を持つ、絵に描いたようなハイスペック人材である。
サントリー在職中には、新商品の企画開発に携わり「DAKARA」「Gokuri」「特茶」などの大ヒットを飛ばし、看板商品である「伊右衛門」「烏龍茶」のブランド戦略も担当した、文字通りのエースであった。
その塚田さんが、自問自答の果てにたどり着いた答えとは何か。
「じゃあ、自分の強みって何だろうって考えたときに、米国で抹茶を広めていくのはどうかな、と思うようになったんです」
2019年3月、塚田さんは誰もがうらやむ経歴とポジションを投げうってサントリーを退社。日米でそれぞれWorld Matchaを立ち上げると、2020年10月、自ら開発した抹茶マシン「CUZEN MATCHA(空禅抹茶)」を米国で発売し、2021年7月には日本でも発売を開始する。
CUZEN MATCHAは『TIME』誌の2020年ベスト発明賞やグッドデザイン賞(2021年)など7つもの賞に輝き、すでに米国で約3500台、日本で約1000台を売り上げるなど、好調な滑り出しを見せている。
「人間らしくやりたいナ」は、かつてサントリー宣伝部で活躍した作家の開高健が、トリスウイスキーのために書いた“永遠の名コピー”である。サントリーのエリート社員が、いったいどうして「自分らしく生きたいな」と思ってしまったのか……。
43歳の自分探しの顚末に耳を傾けた。