なぜ「Gokuri」はジュースなのに甘くないのか
塚田さんがサントリーに入社した1998年当時、サントリーは現在のように分社化しておらず、酒類も食品(飲料)も同じ会社の中に存在していた。
「いまのサントリー食品インターナショナルの前身である食品事業部に入って、新商品飲料のコンセプトを作る仕事をしていました。デザイナーとか研究所の人間とチームを作って新しい商品を形にしていくわけですが、僕は『誰に対する、どんな商品か』ということを規定する仕事をやっていました」
たとえばGokuriは、「子ども向けの甘いジュースは存在するが、では、大人が朝食で飲むフルーツジュースってどうあるべきだろう?」というコンセプトワークから誕生した商品だという。だから、他社のジュースは明らかに子ども向けだが、Gokuriはシャープなデザインのボトルで、甘さよりも本物の果実感を特徴としている。
食品や飲料のメーカーにおいて、一般的に商品開発を担う部署は花形だ。しかも、塚田さんはいくつものヒット商品を出したエースでもあった。これは、人もうらやむポジションだと思うのだが……。
「自分が開発に携わった商品がヒットして、いざそのブランドを育てて行こうと思うと、育てる部分は他の人がやることになって、『お前は次の新商品を開発しろ』と命ぜられるわけです。つまり、ゼロイチばかりやらされるわけで、それはそれで葛藤がありました」
スタンフォード留学での「洗脳」体験
入社7年目で、塚田さんは2年間の海外留学の機会を与えられる。ゼロイチにうんざりしていたはずなのに、留学先に選んだのはゼロイチのメッカ、シリコンバレーにあるスタンフォード大学であった。
そこで塚田さんは、ある「洗脳」を受けてしまったのだと告白する。
「入学と同時に教授陣から、『君たちはいずれ起業していく人間だ』と洗脳されるわけです。なぜなら、『大企業で働いていることはリスクなのだ。大企業の中で、自分で決められることなんてないだろう?』と。しかも、学内では圧倒的に起業家がリスペクトされているわけです」
こうした洗脳によって起業家マインドを刺激されただけではなく、塚田さんは、起業におけるファイナンスについても強烈な洗脳を受けている。