そこで、簡単な計算をしてみよう。

現在、国民年金の保険料は月額1万6590円(年額19万9080円)で、20歳から59歳までの40年間満額を収めた場合、65歳から終身で月額6万4816円(年額77万7792円)の年金を受け取ることができる。2021年の簡易生命表では、65歳時点の平均余命は男で19.85年(84歳)、女で24.73年(89歳)となっている。

この条件が今後も変わらないとするならば、20歳の国民年金加入者は、これから40年で796万3200円を納め、平均的には、男で1553万9171円、女で1923万4796円を受け取ることが期待できる。これを積み立て型投資商品と見なし、運用利回りをEXCELのIRR(内部収益率)関数で計算すると、男が年率2.16%、女が年率2.67%になる。

ついに維持困難に…

年金受給額は、インフレ率に応じて増えていくように設計されている。物価の上昇を完全にヘッジできるとするならば、国民年金は男で2%、女で2.5%のプレミアムを加えた(国家が支払いを保証した)無リスクのインフレ連動債ということになる。

このように、国民年金はけっして損な投資商品ではない。というよりも、この条件であれば、加入しないことで大きな損失を被ることになる。

少子高齢化にもかかわらず好条件が維持できたのは、年金制度に多額の税が投入されていることと、サラリーマンが納めた保険料が大規模に「流用」されているからだ。しかしいま、長期にわたってこれを維持することが困難になってきた。

マクロ経済スライドの減額で生活保護増大可能性も

国民年金の受給額は、人口動態に合わせて、2004年に導入されたマクロ経済スライドによって少しずつ減額されていく。

当初、これはインフレ率がプラスのときにしか適用されない(デフレでマクロ経済スライドを実施すると名目での受け取り額が減って政治問題になる)とされたが、もはやそんな悠長なことはいっていられなくなって、2015年からは問答無用で年金が減額されることになった。

2019年に行われた財政検証では、これによって約30年後に厚生年金の水準が約2割、国民年金は約3割減るとされた。だがその後、コロナ禍で少子化がさらに加速したことで、年金水準の維持はさらにきびしくなった。

年金受給額が現在の7割(月額4万5371円)に減額されたケースで試算すると、平均余命までの受給総額は男で1135万1874円(年利回り1.03%)、女で1346万4357円(年利回り1.60%)まで下がる。

だがそれよりも問題なのは、毎月の受け取り額が現在より2万円ちかく減ることで、これでは生活できないひとたちが続出し、大挙して生活保護に移行しかねない(そうなれば当然、生活保護制度は破綻するだろう)。