SNSでドラマの感想がつぶやかれるワケ

私たちは、毎週『鎌倉殿の13人』を観ながら、「ここからどうやって父を倒すに至るのだろう?」「いったい義時はどこまで悪くなってしまうのだろう?」と新鮮にハラハラできる。

それは細かい史実を視聴者があまり知らないからではないだろうか。毎週、視聴者たちが「今週はどんなことが起きるのだろう?」とハラハラしつつテレビに向かう。それは予定調和の多い大河ドラマのなかではかなり珍しい現象だろう。

SNSと非・予定調和は相性がいい。私たちは、予想していなかったことが起きると、「ねえ聞いてよ!」と驚きの感情を共有したくなる。驚きは、ひとりで抱えておくのがもったいなくなる。だから毎週「こんな面白いことがあったんだよ」と『鎌倉殿の13人』の感想をSNSに書きたくなってしまうのだ。

これが“あの”小栗旬なのか

③ 豪華な役者たちの「新しい魅力」を引き出す当て書き

大河ドラマといえば、豪華な俳優陣がいつも話題になる。『鎌倉殿の13人』も例に漏れず、メインキャストには小栗旬や小池栄子、坂口健太郎や大泉洋などの有名俳優が名を連ねる。しかし『鎌倉殿の13人』の魅力は、すでにお茶の間でよく知られている俳優たちの、新しい魅力を引き出している点にある。

たとえば主人公の義時を演じる小栗旬は、かなり個人的な意見になるが、私の中では『花より男子』や『クローズZERO』や『リッチマン、プアウーマン』などのギラギラしたイメージが強かった。つまり「生まれた時から主人公!」と言いたくなるような、そこにいるだけでスポットライトを浴びている役の印象があったのだ。

2017年12月5日、富士通のスマートフォン「arrows」の新商品・新CM発表会に出席した俳優の小栗旬さん(東京都)
写真=時事通信フォト
2017年12月5日、富士通のスマートフォン「arrows」の新商品・新CM発表会に出席した俳優の小栗旬さん(東京都)

しかし、『鎌倉殿の13人』で彼が演じる義時は、常に父親や兄や親友や上司(源頼朝)に囲まれて、さまざまな人間関係を調整しようとする役。いわば「中間管理職の哀愁」とでも評したくなるような、真面目な調整役のキャラクター。

そんな義時の役が、彼はものすごく似合っていたのである。私は「これがあの小栗旬さん?」と驚いた。大河ドラマの主役だけど、彼の演じる後ろ姿は、中小企業で苦労しつつ真面目に働いていそうな会社員のようだったからだ。

物語が後半になるにつれ、義時はどんどんダークヒーローと化してゆく。鎌倉時代の陰惨な政治状況も相まって、まるでマフィアの親分のような影を背負ってゆく。

SNSでは「これがあのかわいかった義時だなんて、信じられない、いつのまに変わってしまったんだ」とたくさん嘆かれていたが、義時の変貌ぶりはそれほどまでに視聴者の心をつかんだ。いつのまにか哀しきダークヒーローになってしまった義時の姿に、それはそれで「これがあの小栗旬さん?」と言いたくなってしまうのだ。

ほかにも、サイコパスとして描かれた源義経を演じた菅田将暉、40代の役者たちと同年代の好青年武士である畠山重忠を演じた中川大志、殺し屋というオリジナルキャラクターを演じた梶原善、悪女ではなく家族を想うユーモラスな女性として登場している北条政子演じる小池栄子など、挙げればきりがないほどに有名俳優たちが新しい魅力を発揮している。

三谷幸喜は大河ドラマでも当て書きをすることで有名だが、『鎌倉殿の13人』はまさにその当て書きが、例外なくどのキャラクターもぴたりとはまっているのだ。丁寧に人間味をもって描かれたキャラクターたちは、私たちの心に残り、そして演じた俳優たちの人気を上げていることだろう。