自分の頭で考えられないから、パーリ仏典やらチベット密教といった既存の宗教の寄せ集めでつくられた教義を鵜呑みにし、上から言われるままに凶悪な犯罪すら実行してしまったのです。「日本の偏差値エリート」の知的もろさともいえます。

彼一人なら「特殊な事例」だったと捉えることもできるでしょうが、オウム真理教信者には一流大学卒のエリートとされる人たちが大勢いました。そのことに私はショックを受け、教育者としての自分の責任を強く感じました。

教団は多くの死刑囚を出し、すでに全員の刑が執行されていますが、その中にも多くの優秀な頭脳を持つ若者が含まれていました。死刑囚の刑が一斉に執行されたというニュースを見ながら、「日本の偏差値神話は完全に終わった」と思ったものです。

集団テストを受けるアジアの学生
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世界の一流大学が最も重視していること

私は若者たちに賢慮――倫理の思慮分別を持って最適な判断行為をする実践的な知恵を持つ人間になってほしいと思っています。ですから、私は若者たちに常々、「他流試合に身を投じなさい」と言ってきました。これは、優秀な人材を育成している世界の「一流」といわれる大学で、最も重視されていることです。

欧米の一流大学の多くは、この数十年で学部教育を大きく変化させ、意図的に海外や異文化といった多様な背景の人材を混ぜ合わせるということをしています。これは、学生と教師に多様性の中で常に他流試合をさせるためです。

例えばアメリカでは、まず学部で理系や文系といった区別なくリベラル・アーツを学んだ後に自分の学問分野を選び、勉強したうえで卒業します。そして社会人となってからロースクールやビジネススクール、メディカルスクールといった専門の大学院に進みます。

このとき、大学院は自校の学部出身者を採用しないのが基本です。別の大学の卒業生や他国からの留学生を積極的に受け入れ、さまざまな学部卒や出自の違う人材を混ぜ合わせるということをしています。

男女比についても同様の取り組みが行われています。ハーバード、ケンブリッジ、スタンフォード、プリンストンなど、世界のトップとされる大学の学部生の男女比は、ほぼ1対1。さらに、2021年時点で、アメリカのアイビー・リーグ8校(ハーバード大学、コロンビア大学、プリンストン大学、イェール大学、ブラウン大学、ペンシルベニア大学、ダートマス大学、コーネル大学)のうち、ブラウン大学、ペンシルベニア大学、コーネル大学の3校は女性が学長です。

日本の中で閉じこもってはいけない

一流とされる大学がこのような努力をし、多様性を実現させているのは、世界がよりグローバル化する今の時代、大学に多様な属性の学生が集まれば、大学の教育や研究力も多様性を増すという常識があるからです。

多様な人材が集う大学では、学生は他者と自身を比較する機会に恵まれ、自らの長所や短所に気づきやすくなります。また、優秀でない学生も優秀な学生から学べる機会が増えますし、個人の特性や能力についての評価がより広いコミュニティーで共有もされます。