高齢者が運転をやめられないのは「自己効力感」が関係している
それでも高齢さんが運転をやめないのには自己効力感(自分の考えたことが思い通りになる感覚)が関係しています。最近は日常のいたるところでIT化が進み、普段の暮らしの中で、高齢さんが自己効力感を覚える場面が減っています。
毎日、外出のついでに買い物を楽しみにしている高齢さんも多いと思いますが、コロナ禍以降、お客が自分で操作するセルフレジを導入する店舗が増え、これをうまく操作できない高齢さんが、店員を呼ぶ事態も増えています。
高齢になると体力が落ちて、外出するのもひと苦労です。電車に乗るにしても、自動券売機や自動改札機など、使い方がわからず駅員に聞かなければならないこともあります。その点、移動手段に車を使えば自分の思い通りに運転できて、どこへでも行けます。車を運転することは、自己効力感を感じられる数少ない機会なのです。
そのほかに、自動車は人のサードプレイス、つまり、自宅や職場ではない居心地のいい場所でもある、ということも影響しています(メーカーもそれを念頭に開発しています)。
本人を責めるのではなく、趣味などを持たせてあげることが重要
警察庁の「運転免許証の自主返納に関するアンケート調査結果」によると、2015年10月5日~11月30日に全国で運転免許証を更新した75歳以上の1494人のうち、「自主返納しようと思ったことはない」という人は67.3%を占めていて、おおよそ70%の高齢さんは免許証の返納を考えていないことがわかりました。自己効力感を手放すということが、高齢さんにとっていかに抵抗感のあることなのかがわかります。
それを踏まえたうえで、「やはり運転は危険だ」「自分の親に運転をやめてほしい」と思うなら、例えば家の壁に車をこすってしまったなど、本人が運転に不安を感じた機会を利用するなどして、家族で話し合うのが効果的です。
ただし、その際に家族は本人を責めたり、能力の低下を認めさせるような言動をしたりすることは慎むこと。大切なのは本人が「運転をやめよう」「運転はもうしなくてもいいかな」と自発的に運転をやめる方向に話をもっていくことです。運転をやめる代わりに趣味や自治会の活動、ボランティアなど、本人の興味を引く活動があれば、それらに「自己効力感」を持つことができるよう、その活動にうまく導いてあげましょう。
また、運転をしなくても移動のときに不自由しないように、移動手段についても家族で話し合いながら、運転免許証返納の仕方を考えるのもひとつの手です。